研究実績の概要 |
地球大気組成の変遷史については,これまでに地質学的記録や地球化学的データに基づいて大局的なシナリオが得られてきた.しかしながら,地球大気の将来進化,特に酸素に富んだ大気の持続期間についてはよくわかっていない.本研究計画は,大気中の酸素,二酸化炭素およびメタンの濃度を規定する地球表層圏(大気―海洋―地殻)での主要生元素(C, N, P, O, S)循環を包括的に考慮した新規の数値モデルを構築し,統計手法と組み合わせることで,将来の地球大気進化とその背後にある物質循環を明らかにすることを目指すものである.これにより,地球大気の将来進化を物質循環に基づく理論的見地から総合的に理解する. 数値モデルの開発作業は当初の予定以上に順調に進展した.構築した地球表層圏の生元素循環についての数値モデルを顕生代に適用し,シミュレーション結果を地質記録と比較することでモデルの検証を行った.その上で,統計手法(モンテカルロシミュレーション)を用いた将来の富酸素大気の持続期間とその背後にある物質循環について調べた.その結果,富酸素大気の持続期間を約10.8±1.4億年と見積もることに成功し,またその時間スケールの支配要因を明らかにすることができた.本研究成果は当該分野最高峰の国際学術誌に掲載されるに至っている.これらにより,当初の研究目的の主要部分が達成された.今後は,さらなるモデルの高度化を行うことで大気貧酸素化に伴う気候ダイナミクスについて調べる予定である.
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