研究課題
気候モデルによる気候変動予測には大きな不確実性がある。例えば、IPCC AR6で参照されている気候モデル(CMIP6)によって予測されるCO2倍増時の気温上昇量(気候感度)には1.8-5.6℃の幅がある。不確実性の最大の要因は、雲・降水プロセスにある。IPCCに貢献してきた日本の気候モデルMIROCの開発グループでは、雲・降水プロセスを改良したMIROC7の開発を始めている。例えば、多くの気候モデルでは、計算資源の制約から、大気中で生成された雨・雪粒子は即座に地表に落ちる簡略的な表現がなされていた。MIROCでは、雨・雪粒子が大気中をゆっくり降りてくるプロセスをより現実的に表現する改良を行った。この雲・降水プロセスの改良が気候変動予測に与える影響を調べた。その結果、これまでMIROCには、大気上層の雲が観測に比べて少なくなるバイアスがあったが、それがこの改良によって軽減された。また、温暖化時 には、上層雲の高度が高くなる変化がより明瞭に見られる様になった。雲は、高度が高い程、温室効果がより効率的に働くので、これは雲による温暖化の加速効果が強くなったことを意味する。上層雲量の過少バイアスは、他の多くの気候モデルにも見られるものである。これらのモデルも雲の温暖化の加速効果を過小評価している可能性が考えられる。今後さらに、物理プロセスの表現を改良していくことによって、気候変動予測の不確実性を低減していくことが期待される。
1: 当初の計画以上に進展している
本研究課題では、世界の多数の気候モデル(CMIP3, 5, 6)の実験出力の解析と、日本の気候モデルMIROCによる数値実験を予定している。2020年度はCMIPデータの解析を行った。最新のCMIP6データは、2020年度までにその大部分が公開され、そのデータをいち早く整備し、解析を行った。2021年度は、MIROCによる数値実験を行い、モデル改良による気候変動予測実験への影響を調査した。その結果、気候感度の不確実性に関わる降水プロセスの重要な役割を示すことができた。その成果は2本の論文として国際学術誌で発表された。
2020-2021年度に、2本の研究論文を発表し、降水プロセスと気候変動予測の関係を示した。2022年度は、ここまでの研究で新たに明らかになってきた、気候モデルの放射プロセスと降水プロセスの関係を調査する予定である。課題代表者は、2021年度よりMIROC開発のとりまとめを担当しており、本課題で得られた知見をMIROC開発活かして、モデルの性能向上を目指す。
新型コロナウィルスの影響で予定していた国際学会がオンライン開催になったため旅費が必要なくなった。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
Geophysical Research Letters
巻: 49 ページ: -
10.1029/2021GL096523
Nature
巻: 602 ページ: 612-616
10.1038/s41586-021-04310-8
Environmental Research Letters
巻: 16(7) ページ: -
10.1088/1748-9326/abfb9e