研究実績の概要 |
気候モデルによる気候変動予測には大きな不確実性がある。例えば、IPCC AR6で参照されている気候モデル(CMIP6)によって予測されるCO2倍増時の気温上昇量(気候感度)には1.8-5.6℃の幅がある。不確実性の最大の要因は、雲・降水プロセスにあることが知られている。本研究課題の目的は、気候モデルにおける雲・降水プロセス表現と気候感度の関係を調べ、気候変動予測の不確実性を理解し、低減することである。 世界の多数の気候モデル(CMIP3, 5, 6)の実験出力の解析と、日本の気候モデルMIROCによる数値実験を行った。その結果、MIROCを含む多くの気候モデルでは、2つの雲フィードバックプロセスが十分に働いていないことが示された。1) 熱帯海上の下層雲(雲頂高度2000m程度)は、地球温暖化の進行とともに減少すると考えられている。そのことで、雲の日傘効果が弱くなり、温暖化を加速する。しかし、多くの気候モデルでは、下層雲の表現が不十分であり、この正のフィードバックプロセスが十分に働いていないことが示された。2) 大気上層(高度10000m程度)の雲は、温暖化の進行とともにその高度が高くなる。そうすると雲の温室効果がより効果的に働き、温暖化を加速する。多くの気候モデルでは、上層雲の表現も不十分であり、この正のフィードバックの働きも不十分であることがわかった。更に、これらの理解に基づいて、気候モデルによって見積もられる雲フィードバックの不確実性を制約することにも成功した。これらの成果は、2本の論文として国際学術誌で発表された。更に、気候モデルMIROCの雲・降水プロセス表現の修正を行い、雲フィードバックがより適切に働くように改良することにも成功した。
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