研究課題/領域番号 |
20K04068
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研究機関 | 国立研究開発法人防災科学技術研究所 |
研究代表者 |
平島 寛行 国立研究開発法人防災科学技術研究所, 雪氷防災研究部門, 主任研究員 (00425513)
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研究分担者 |
大澤 光 筑波大学, 生命環境系, 助教 (70839703)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 側方流動 / 水分移動モデル / 斜面浸透実験 / マルチライシメータ |
研究実績の概要 |
本年度は、まず過去に行われた傾斜29°の斜面積雪における野外浸透実験に対して、水分移動モデルを用いた再現計算を行った。再現計算は2次元で行い、野外実験時と同じ積雪、傾斜及び水供給条件を入力して計算を行った。その結果、浸透経路や毛管障壁の影響による斜面下流への移動など、定性的な浸透過程においては実測とモデルでおおよそ一致した結果が得られた。この結果は、オンラインで開催された雪氷研究大会で発表した。また、分担者の大澤氏は2020年度地すべり学会において、「地すべり地における多雪年と少雪年の間隙水圧応答の比較」の題目で発表を行い、若手優秀発表賞を受賞した。 2021年3月に斜面浸透実験として、20°の斜面において前回と異なる積雪、傾斜条件で散水浸透試験を行った。2020/21年の冬は寒暖の差が大きかったため多数の氷板がみられ、その氷板が止水面となって滞水し、その上で側方流動が発生した箇所が見られた。また前回の実験では見られなかった表面付近における側方移動も確認した。 さらに、防災科学技術研究所雪氷防災研究センター(長岡)に設置してあるマルチライシメータの13冬期分のデータを断面観測や気象データとともにとりまとめて水分移動モデルの入力データや検証データに使用できるデータセットを作成した。その中で数例をピックアップして側方流動に関する再現計算を実行した。マルチライシメータで観測される流出が不均一なときは側方流動が起きていると解釈できるが、積雪条件によって側方流動が起きたケースと起きなかったケースが実験、観測の双方で見られ、その傾向については実測と計算で良い整合性がみられた。その結果を海外の研究協力者とも共有し、側方流動は僅かな斜面でも起こりうることや、その傾斜角により著しく変わること等、側方流動のメカニズムに関する議論を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、斜面積雪の浸透実験、水分移動モデルを用いた斜面浸透実験の再現計算、水分移動モデルを用いたマルチライシメータの不均一流出の再現計算、及び当成果のALPINE3Dへの組み込みの4つのサブテーマからなる。まず、斜面積雪に対する散水実験については、2021年3月に行った積雪調査の際に実行した。浸透実験は20°の斜面に対して行い、以前行った浸透実験とは異なる浸透パターンが観測でき、複数パターンで再現計算するためのデータが得られた。また、斜面積雪中の浸透に関する再現計算も随時進めており、再現計算の結果の一つについては学会で発表した。 マルチライシメータデータを用いた流出の不均一性に関しては、長岡雪氷研に設置してあるマルチライシメータの13冬期分のデータを断面観測や気象データとともにとりまとめ、斜面浸透を計算するモデルの入力データに変換して再現計算を行うデータセットを整えた。全期間中に断面観測結果は174例あり、そのうち92例はその後48時間のうちに融雪または降雨により10mm以上の流出が観測されている。それをターゲットとして断面観測後48時間の降雨及び推定融雪量を与えて再現計算を行い。個々の不均一性の解析を進めている。 側方流動過程のALPINE3Dへの組み込みに関しては研究協力者のNander Wever氏が行っているが、オンラインで情報共有を行い、側方流動に関する議論を行って連携を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き異なる積雪、傾斜条件で斜面浸透試験を行い、より多くのパターンで側方流動過程の違いを解析する。その際には平坦地に近い緩やかな斜面のほか、屈曲した斜面等でも実験を行う。それらの結果に対して、水分移動モデルを用いて再現計算を行い、側方流動がよく再現されたケースと誤差が大きかったケースに分類して、誤差が大きいケースに対しては精度改善のためのモデル改良につなげる。なお、水分移動モデルで計算する際には計算時間の関係で主に2次元で行うが、数例に対しては3次元の計算も試み、2次元で計算したときとの違いについても比較する。 また、とりまとめたマルチライシメータと断面観測のデータを用いた積雪の不均一浸透の再現計算を全事例について行い、それらをとりまとめて積雪層構造と底面流出の不均一性の関係について解析する。それによりこれまでの解析では見られなかったマルチライシメータで不均一な分布が見られた際に積雪内部でどのように側方流動が起こっていたかについて解析を行う。さらに、与える傾斜角を変えた感度実験等を行い側方流動の傾斜依存性等の解析も進める。 上記で得られた成果をもとにALPINE3Dへ側方流動過程の組み込みを進め、ALPINE3Dで同様の斜面浸透計算及びマルチライシメータの再現計算を行う。水分移動モデルの結果との比較を行いALPINE3Dの改良を進める。これにより開発される積雪中の側方流動を考慮した分布型積雪モデルによって融雪災害や積雪期の河川流出量予測の精度の改善が期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究はイタリアやアメリカに在住している外国人研究者を研究協力者に入れて国際共同研究で行っているため、イタリア等への打ち合わせのための海外出張旅費を計上していた。しかしながら、2020年初頭より蔓延した新型コロナウイルスにより海外出張が困難になった。そのため、2020年度はオンライン会議やメール上のみでの打ち合わせで進めるとともに、使用できなかった出張旅費は次年度に繰り越すこととした。繰り越した旅費は可能であれば次年度の海外出張に使用する予定であるが、感染拡大が収まらず次年度の海外出張も困難である場合は、計算環境の強化のためにPCの購入等に使用する予定である。
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