本研究は観測とモデルを用いて斜面積雪中で発生する側方流の解明を目的としている。最終年度では、これまでの計算結果を取りまとめるとともに、2023年3月にも斜面浸透試験を行ってデータを蓄積した。斜面浸透試験は傾斜6度から30度までの5パターンで行ったが、積雪層構造条件によっては傾斜6度でも側方流が発生することが観測及び数値実験において確認された。側方流は、積雪層境界の毛管障壁や氷板が止水面となって帯水が生じた際に水が斜面に平行に流れることにより起こる。この積雪内部における側方流の発生は水分移動モデルでよく再現できたが、現地試験で何度か見られた表層付近における側方流の発生は十分に再現できなかった。これは新雪における水分移動のモデル化が難しいことが原因と考えられるが、この解決は今後の課題として残された。 マルチライシメータで観測された13冬季分の流出量分布のデータをまとめるとともに、断面観測と気象データを入力してモデルを用いて側方流の再現計算を行った。観測、モデルともに毛管障壁が生じる積雪層構造の場合は、マルチライシメータの外側の縁切りのための枠により生じた僅かな傾斜でも側方流が発生していた事が確認された。モデルでは側方流の発生の有無をよく再現したが、それによる偏りの量は誤差が大きかった。また実際に枠が積雪に与える影響を確認するため、枠を模擬した柱を平坦な露場に設置し、その後に自然状態で堆積した積雪層構造への柱の影響を調べた。その結果、柱の周辺で積雪の褶曲が生じ、その褶曲は積雪上部では小さくなる傾向があること、外枠やライシメータ間の仕切りにより生じた積雪の褶曲が流出量の偏りに大きく影響したことが確認された。 研究結果は毎年雪氷研究大会にて進捗を発表した。また、側方流の研究レビューを雪氷の総説にまとめたほか、最終年度にはスイスのダボスで行われた国際雪氷学会にて本研究の成果を発表した。
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