研究課題/領域番号 |
20K04074
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
土井 威志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(アプリケーションラボ), 副主任研究員 (80638768)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 多アンサンブル / 季節予測 / アンサンブル間の共変動 / インド洋ダイポールモード現象 / 暖冬 |
研究実績の概要 |
世界の現業予報機関や研究開発機関の季節予測システムはせいぜい数10程度の予測アンサンブルメンバーで構成されているのが現状であり、アンサンブルメンバー間の違いについて頑健な統計解析するには、サンプル数が不足している。複数の違ったモデルを統合すれば100以上のアンサンブル予測結果を準備可能だが、各モデルの特徴やバイアスも含んでしまい、制御プロセスの解析等には不向きだと考える。あるいは、過去複数の事例を、ある基準で選定し、同サンプルとして扱うことでサンプル数を補うことも可能だが、事例毎の多様性を無視することになり、本質的な制御プロセスを見落としかねない。このような状況を打破すべく、本研究では、100程度のアンサンブルメンバーによる季節予測シミュレーションを、過去40年分にさかのぼり、実施した。単一の予測システムを基盤として、このような大規模アンサンブルで季節予測シミュレーションを実施するのは世界初である。
日本を含め、東アジアの冬の予測の精度は低いのが現状であるが、上記の多アンサンブル季節予測シミュレーションでは、2019年から2020年にかけての日本の記録的な暖冬の予測が的中した。その理由を探索するため、予測アンサンブルメンバーの「共変動」に注目した。すなわち、アンサンブル手法を使った予測シミュレーションの各々の結果のバラツキに対し、何らかの物理的構造や制御プロセスを持つ「共変動」が無いかを調べたところ、2019年に発生した過去最強クラスの正のインド洋ダイポールモード現象の影響が重要であることがわかった。この成果を契機に、極めて強いインド洋ダイポールモード現象が東アジアの冬に影響するプロセスの理解が進むと共に、それらの予測情報を基盤とした農業や感染症等に関する応用研究が展開されることも期待される。本成果は、「Geophysical Research Letters」で掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
多アンサンブル予測シミュレーションによる再予測プロダクトを作る段階を超えて、科学的知見、すなわち、2019年から2020年にかけての日本の記録的な暖冬の予測が、2019年に発生した過去最強クラスの正のインド洋ダイポールモード現象に起因することを見出し、それを国際査読誌で速やかに発表したため。
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今後の研究の推進方策 |
中緯度域の季節予測研究の問題は、季節予測が可能なシグナル成分に対して、大気の内部変動に起因するノイズ成分の比率が大きく、予測シグナルとノイズの境界領域の制御プロセスの理解が不十分であることだと考えている。例えば、従来の一般的な予測研究では、各アンサンブルメンバーの予測の平均値を予測シグナルとし、予測アンサンブルメンバー間のバラツキはノイズとして処理されてきた。しかし、ノイズとして処理してしまっているアンサンブルメンバー間の違いは、単にランダムにバラついているのではなく、物理的構造を持ち、且つ海表面水温の状況に依存するような成分("準予測シグナル”と呼称する)が隠れていないだろうか?それらを発見することができれば、その制御プロセスを理解することで、季節予測の飛躍的な高精度化が可能になるかもしれない。そこで、シグナルとノイズのそれぞれの経年変動に注目し、そのメカニズムに対して知見を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの影響より、多くの学会がオンラインで開催され、今年度の旅費が不要となった。また、今年度は、多アンサンブル予測シミュレーションのアンサンブル数を100から200に増やすことより、100程度のアンサンブルでどのような科学的知見を成果が出せるかに注目して研究したため、200程度のアンサンブル数で、シミュレーション結果を保存するストレージが必要なくなった。翌年度分と合わせて、多アンサンブルシミュレーションの結果を保存するHDDを購入する計画である。
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