研究課題
短時間で急速に発達する積乱雲の挙動の更なる理解は防災・減災の観点から重要である.本研究はひまわり8号日本域観測(2分30秒),X帯フェーズズドアレイ気象データ(PAWR: 30秒)を用いて積乱雲の短時間挙動を捉える.雲の光学的特性に着目し,雲の光学的厚さ,雲粒の放射有効半径を衛星データから推定,発達段階を診断する手法を「1つの積乱雲」に適用し,発達過程を精緻に観察することで危険な積乱雲の発達初期描像を明確にすることをその目的としている.初年度となる2020年度はこれまで取得された観測データよりいくつかの事例を取り出し,事例解析を実施した.特にサイズパラメーターから想定されるマイクロ波の周波数の違いによるレーダからの雲粒子の見え方の違い(PAWR はX帯,千葉大学西千葉キャンパス内に設置されたFMCW 雲レーダはW帯 [95GHz])に着目し,同キャンパス内で連続稼働しているライダー観測データも加味した総合解析を一つの対流イベントに対して実施した.その結果,検出可能時刻に関し計測原理の違いに基づく明確な時間差(雲レーダによる検出の50分前にライダーで検出)をもって検出することが可能であることを示すことができた.一方,鉛直一次元のみで観測する測器を基に解釈を行うと,周辺の状況を把握できず,「対流が発生」,「対流が消滅」と誤った解釈に陥る可能性が極めて高いことを再度確認することができた.
2: おおむね順調に進展している
初年度となる2020年度はこれまで取得された観測データよりいくつかの事例を取り出し,事例解析を実施した.特にサイズパラメーターから想定されるマイクロ波の周波数の違いによるレーダからの雲粒子の見え方の違い(X帯PAWR およびW帯FMCW 雲レーダ)について,ライダーデータも加味した総合解析を実施した.PAWRレーダを除く他のアクティブレーダは鉛直一次元のみを計測するため,千葉大西千葉キャンパス上で発生・発達する事例を精査したところ,2020年9月4日に東京湾で発生した積乱雲事例が該当し,事例解析を行なった.はじめに両レーダのレーダ反射強度,ライダーの後方散乱係数,および可降水量,雲水量,雲底・雲頂高度の時間変化について調べた.雲レーダにおいてレーダ反射因子が確認される約50 分前の段階からライダーの後方散乱係数や雲底・雲頂高度,可降水 量に変化がみられたことから,この時点で千葉大学上空に積雲群が存在していたと考えられる.この段階では雲底・雲頂高度に変化がみられなかったことから,積雲はほとんど発達せず,生成・衰退を繰り返していたと考えられる.雲レーダのファーストエコー以降では,可降水量が上昇しており,LiDAR における後方散乱係数も 2 箇所に確認できることから,上昇流により雲粒子が持ち上げられたと考えられる.この段階では 3 つのエコーに分かれており,これらのエコーは発生後すぐに降下していることからほとんど発達しなかったと考えられる.フェーズドアレイ気象レーダのファーストエコー以降では,3つのエコーが生成し,それらの寿命は10~15分ほどであった.この段階では可降水量は乱高下しており,水蒸気供給と凝結併合が進んだと考えられる.
地上観測データに基づく事例解析の精査に関しては,定量的な議論が未だできなかった上昇流・下降流に関して更なる解析を行う.ひまわり8号データとの関連では,研究計画当初から挙げていた水蒸気バンドの挙動について解析を行う予定である.
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Geophysical Research Letters
巻: 47 ページ: e2020GL091061
10.1029/2020GL091061