研究課題/領域番号 |
20K04080
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
樋口 篤志 千葉大学, 環境リモートセンシング研究センター, 准教授 (90324384)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 積乱雲 / レーダ / ひまわり8号 / PAWR / 発達初期 / 地形性降水 |
研究実績の概要 |
短時間で急速に発達する積乱雲の挙動の更なる理解は防災・減災の観点から重要である.本研究はひまわり8号日本域観測(2分30秒),X帯フェーズズドアレイ気象データ(PAWR: 30秒)を用いて積乱雲の短時間挙動を捉える.雲の光学的特性に着目し,雲の光学的厚さ,雲粒の放射有効半径を衛星データから推定,発達段階を診断する手法を「1つの積乱雲」に適用し,発達過程を精緻に観察することで危険な積乱雲の発達初期描像を明確にすることを目的としている. 2年目となる2021年度は,過去の適応事例を含んだ第三世代静止気象衛星データを用いた防災研究,大気・陸域モニタリングに関する総説を取りまとめた.観測データではPAWRの故障により,2021年度は新しい事例を得ることが不可能となってしまったことから,2020年度に見つけた事例(2020年9月4日に東京湾で発生した積乱雲事例)を再度精査し,その際広域での天候変化に着目した.その結果,2020年度時点での解釈では検出可能時刻に関し計測原理の違いに基づく明確な時間差(雲レーダによる検出の50分前にライダーで検出)をもって検出することが可能,としたが,両方のセンサで捉えた1st エコーはそれぞれ異なる事象であることが分かった.異なる事象であることを確認する際に気象庁メソ解析(MSM)を用いたが,MSMで表現された風の場が,ひまわり8号から得られた雲画像と良い一致を示していたことから,3次元的な解釈の際に有効な情報として利用可能であることを改めて認識した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目となる2021年度は,過去の適応事例を含んだ第三世代静止気象衛星データを用いた防災研究,大気・陸域モニタリングに関する総説を取りまとめた.観測データではPAWRの故障により,2021年度は新しい事例を得ることが不可能となってしまったことから,2020年度に見つけた事例(2020年9月4日に東京湾で発生した積乱雲事例)を再度精査し,その際広域での天候変化に着目した.その結果,2020年度時点での解釈では検出可能時刻に関し計測原理の違いに基づく明確な時間差(雲レーダによる検出の50分前にライダーで検出)をもって検出することが可能,としたが,両方のセンサで捉えた1st エコーはそれぞれ異なる事象であることが分かった.異なる事象であることを確認する際に気象庁メソ解析(MSM)を用いたが,MSMで表現された風の場が,ひまわり8号から得られた雲画像と良い一致を示していたことから,3次元的な解釈の際に有効な情報として利用可能であることを改めて認識した. 本事例研究とは別に,豪雨をもたらすセルか否かそうでは無いかを分ける要素の一つとして,地形による強制上昇,いわゆる地形効果について,レーダアメダスデータを用いて解析を行った.地形性効果を明瞭に観察するために,県境で明瞭な分水嶺が南北に連なる熊本および宮崎,東北地方の日本海側と太平洋側に着目し,かつ対象期間(2016-2020)の全てのイベントではなく,梅雨・秋雨,台風,および冬季降水を除いて解析を行った.その結果,熊本では標高400m,東北太平洋側では標高400m, 700mを境に降水頻度と降水強度の関係が異なっていたことが分かった.標高の違いによる雨の振り方の差異に関する知見の蓄積は水資源の観点から重要であるが,PAWRに代表される高頻度3次元レーダで得られる個々の降水セルの描像とどう繋げていくかについては今後の課題である.
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今後の研究の推進方策 |
地上観測データに基づく解析では,2021年度に関しては新規事例を得られなかったことから,これまでPAWRで取得された観測データを基に,統計的な解析を実施することでセル発達初期の描像をまとめていく予定である.3次元構造を持つセルをある程度自動的に抽出するためには,目視での精査では限界があるため,3次元レーダエコーを2次元に投影して解析することが望ましい.そのためのプログラミングは2021年度中にテスト済みである.ひまわり8号データとの関連では,特に水蒸気バンドの挙動について解析を行う予定である.
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次年度使用額が生じた理由 |
投稿中の論文群の査読プロセスがコロナ禍の影響もあり,想定よりも遅かったため,論文掲載料の確保の観点から次年度に繰り越した.現在投稿プロセス中の論文群が無事受理されれば,繰り越し予算,および2022年度分経費を用いて論文掲載料の捻出が可能である.
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