研究課題/領域番号 |
20K04082
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
竹下 欣宏 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (00578271)
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研究分担者 |
廣内 大助 信州大学, 学術研究院教育学系, 教授 (50424916)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 活断層 / 活動履歴 / 変位量 / 定量的活動性評価法 / 第四紀火山 / 黒姫山 / テフラ / 野尻湖 |
研究実績の概要 |
引き続き黒姫山周辺(長野県信濃町の野尻湖西側の地域)において、活断層の位置や活動履歴,変位量などを明らかにすることを目的として,①断層露頭における詳細な地質構造の観察,②断層露頭周辺における地形調査,③ボーリングコアおよび段丘被覆層の年代測定,④赤川左岸の段丘面上におけるトレンチ調査,⑤赤川左岸の低地帯におけるボーリング掘削を実施した.その結果,次のことが明らかになった. 先行谷などの変動地形に基づき,野尻湖西方(六月集落)の露頭で発見された断層は北東南西方向に6 km程度連続する可能性があることが明らかになり,この断層を仮に向新田断層と呼ぶこととした.六月の露頭の詳細な地質調査により,向新田断層は30ka以降3回活動した可能性があり,1回あたり1.5~2.0m程度の変位を地表にもたらした可能性が高い. 池尻川低地には,基盤(池尻川岩屑なだれ堆積物)の上に,最大で厚さ13mの堆積物が堆積しており,約44kaの鍵テフラ層である[青ヒゲ]直下で砂礫主体の地層から泥炭主体の地層に層相が変わる.その変化の原因は向新田断層の活動による河川下流側の隆起に伴う低地の閉塞の可能性が高い. 年代測定とテフラ対比の結果,赤川左岸の段丘は約11kaに離水しており,向新田断層の最新の活動で離水した可能性が高いことがわかった.このことは六月の露頭で断層が黒ボクを切らないこととも整合的である.赤川の低地帯におけるボーリング掘削により全長18mのコア試料を採取した.コアの観察の結果,深度18.00~16.18mは泥岩層,深度16.18~9.70mは安山岩の亜円から円礫を主体とする礫層からなり,深度9.70m~0.00mは主に泥炭層が堆積していることが明らかになった.さらに深度7.82mで泥炭層中に厚さ4cmのガラス質火山灰層が挟まれており,姶良Tnテフラに対比される可能性がある.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、研究実績の概要に記述したように,長野県上水内郡信濃町(黒姫山の周辺)において地形調査、露頭の記載,ボーリング掘削調査を実施し,活断層の位置や活動履歴,変位量などを明らかにするための地形・地質学的な基礎データを取得することができた. 向新田断層(仮称)の下盤側にあたる赤川の低地帯で採取した全長18mのコア試料の観察により9.7mと厚い泥炭層が堆積していること,深度7.8mに姶良Tnテフラに対比される可能性のあるガラス質火山灰層を確認した.それらと本断層の上盤側に見られる地層やテフラ層との対比を明らかにすることで,断層活動による沈降量を定量的に求める目途が立った.また,2020年度に同じく断層の下盤側に位置する池尻川低地で採取したボーリングコアに挟まれるテフラ層と対比をすることで下盤側の具体的な変動を推定することができる可能性がある. 垂直方向の変位量を推定するために重要な役割を果たす上盤側の水成層を確認するためのトレンチ調査に向けて,調査地点の目星をつけることができた.以上のような状況から,おおむね順調に研究が進んでいると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は赤川の低地帯で採取したボーリングコア試料と池尻川低地で採取したボーリングコア試料に挟まれるテフラ層の対比を進め,向新田断層(仮称)の下盤側の具体的な沈降量を探る.また本断層の垂直方向の変位量を推定するために重要な役割を果たす上盤側の水成層を確認するためのトレンチ調査を実施し,具体的な垂直変位量を明らかにする.断層下盤側のボーリングコア試料および上盤側の断層露頭のテフラ層の記載岩石学的性質を明らかにし,それらのデータに基づきテフラ対比を確実なものとする.このようにして構築するテフラ層序を時間の尺度に,ボーリングコア試料や露頭に見られるテフラ層の標高を垂直方向の変位量の尺度に用いて向新田断層の定量的な活動性の評価を行う. 向新田断層と同様に若い第四紀火山(栗駒山)の周辺に位置し,岩手・宮城内陸地震を発生させた断層に関しては多くの既存研究があるため,それらのデータをコンパイルして向新田断層の地形学的な特徴や定量的な活動性と比較する.本研究で調査対象としている向新田断層も岩手・宮城内陸地震を発生させた断層も、活断層だと認定するための明瞭な地形的証拠に乏しいことも類似しているため,両断層の比較により若い第四紀火山周辺地域における不明瞭な活断層の認定と定量的活動性評価法を構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
地権者との交渉でボーリング掘削を農閑期に実施する必要が生じ,掘削期間が年末になった.その影響でボーリングコアの記載もずれ込み,テフラ分析と年代測定を実施することができなかった.このため2022年度はテフラ分析と年代測定を実施する予定である.
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