研究課題/領域番号 |
20K04084
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
浅野 公之 京都大学, 防災研究所, 准教授 (80452324)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地震波干渉法 / 速度構造 / 地盤構造モデル / 強震記録 |
研究実績の概要 |
堆積平野・盆地での地震動伝播シミュレーション(地震動予測)の精度向上や適用可能周期帯域の広帯域化には、堆積層のS波速度構造や基盤深度の空間分布に関する詳細なモデル化が不可欠である。堆積平野・盆地に多数設置されている強震・震度観測点のイベント波形記録に地震波干渉法(自己相関関数法)を応用し、堆積平野・堆積盆地の地震波速度構造を把握する手法を標準化することを目的とした研究である。本研究計画では、1)数値実験と2)観測波形データの解析の両者がお互いにフィードバックすることを目指している。 令和2年度は、1)数値実験として、大阪平野・京都盆地の速度構造を模擬した一次元速度構造モデルを準備し、実際の強震観測データの震源分布や仮想的な震源分布を模擬し、離散化波数法による理論波形を計算した。得られた理論波形の自己相関関数を計算し、堆積層/基盤境界からの反射波を検出するための適切なデータ選択基準を検討した。自己相関関数解析によって検出される反射波の明瞭さには、盆地基盤面に入射する地震波の入射角依存性が大きな要因であることを確認した。イベント波形記録の選択には、震央距離(L)と震源深さ(D)の比を簡易的な判断基準として用いることができることを明らかにした。大阪盆地や京都盆地においては、震源深さ15km以浅の地震記録に対してL/D<7を基準とすることとした。 2)観測波形データの解析としては、大阪平野と京都盆地内の79強震観測点(自治体による震度観測点を含む)を対象に、解析を行った。波形の前処理であるフィルターやスペクトルホワイトニングのパラメータを適切に調整し、ほぼ全地点で堆積層/基盤岩境界からの反射波と判断できる相を検出することができた。反射波の往復走時を既存の地下構造モデルと比較し、大阪平野東南部の盆地縁辺部等で、モデル改良の余地があることが分かった。津軽平野についても初期的な解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、当初の計画通り、1)一次元速度構造モデルによる数値実験を通した解析条件の吟味、2)大阪平野、京都盆地、津軽平野の強震・震度観測点で取得された地震動波形記録に地震波干渉法を適用し、堆積層/基盤岩境界からの反射波の抽出を行った。1)の数値実験や2)の地下構造が既知の観測点における実データの解析の両者のフィードバックを通して、イベント波形記録の選択基準、波形前処理におけるフィルター幅やスペクトルホワイトニングの幅について、堆積層/基盤岩境界からの反射波を明瞭に検出するための解析パラメータを整理することができた。 本研究を通じて、1)の数値実験で得られた知見を2)の実データの解析に適用して検証するとともに、反対に、2)の実データの解析で生じた課題を1)の数値実験の問題設定の参照とするという当初の研究計画に沿って進捗させることができ、これにより大阪平野や京都盆地などの多数の強震・震度観測点で直下の堆積層内を伝播する反射波の往復走時を推定し、速度構造モデル改良に繋がる貴重な情報を得ることができた。得られた研究成果については、国内学会の大会で報告したほか、第6回表層地質が地震動に及ぼす影響に関する国際シンポジウムの発表論文として取りまとめ、投稿した。令和3年度以降も引き続き、研究計画に沿って着実に研究を進捗させることができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、当初の研究実施計画に沿って着実に研究を進めて行く必要がある。令和2年度に大阪平野や京都盆地を対象に行った解析結果について、レシーバ関数解析や反射法探査、微動アレイ探査など既存の研究成果と比較検証を進める。大阪平野や京都盆地とは地質構造の特徴が大きく異なる津軽平野や富山平野など、他の地域での適用性についても吟味していく必要がある。数値実験についても、より複雑な速度構造を仮定した場合など、問題設定のバリエーションを広げていく。また、地震波干渉法(自己相関関数解析)によって得られる堆積層/基盤岩境界からの反射波の情報を、実際の地盤構造モデル修正に繋げていくための手続きを検討し、必要な解析コードの整備に着手する。 令和2年度内に得られた研究成果について、令和3年度に開催される第6回表層地質が地震動に及ぼす影響に関する国際シンポジウムで発表する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の感染拡大にともない、令和2年度に参加予定であった国際シンポジウムが令和3年度に延期になったために、学会参加・論文投稿費などを執行できず、次年度に支出すべきものとなるものが生じた。また、国内・国際学会がオンライン形式で開催となったため、旅費や大会参加費の執行減が生じた。これら次年度使用額は、令和3年度に延期された国際シンポジウムで成果発表等を行うことや研究計画遂行のための旅費、消耗品費、会議参加・論文投稿費等に充当する予定である。これによる研究計画全体への影響はない。
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