研究課題
2022年度は,これまでに掘削したSt.1および2地点におけるコアの分析・解析をすすめた結果,以下のことが明らかになった.西暦1400年代から1900年代半ばにかけて貝形虫Spinileberis quadriaculeataやCytheromorpha acupunctataが増加した.これは,中海の湖底が相対的に酸化的な環境に遷移したことを示唆する.同時期に,TOC,TN,Sは全体として減少傾向にあった.この期間には,斐伊川の東流や飯梨川の河口位置の変化の影響が中海湖心部にも及んでいた可能性が高い.貝形虫とCNSの変化がそれぞれ,河川水流入の増加に伴う酸素供給の増加,および砕屑物の供給量の増加に伴う有機物の希釈効果であると考えると,水理環境の変化と矛盾しない.有孔虫に関しては,Ammonia beccariiとTrochammina hadaiが交互に優占しており,湖水循環の変化が示唆される.この変化は,堆積相における葉理の発達や,TOCとCNの一時的な減少に一致しているものの,現時点では明確な原因が分からない.西暦1800年以降の Cu,1900年以降のMo 濃度の急激な上昇が検出された.これには,それぞれの時期に行われた集水域での銅およびモリブデン鉱山の開発が影響したと考えられる.西暦1900年頃を境に,CNSや多くの重金属の濃度が急増,貝形虫の産出量や多様性が減少するとともに,有孔虫や珪藻の富栄養種が増加した.この急激な変化は,産業・生活排水による栄養塩の負荷と港湾建設などによる停滞性の悪化によって環境が大きく悪化したことを示唆する.その後西暦1960年代以降,多くのプロキシが中海の環境回復を示唆する.加えて,中海の時空間的な環境変化を明らかにするため,St.3地点においてコアを採取し,湖底堆積物の層序学的な評価や処理・分析を行った.
3: やや遅れている
これまでに採取した堆積物試料は,研究メンバーに配布され,それぞれの元で分析が進行中である.2022年度は,コロナ禍の影響でそれまで行えなかったSt.3における試料採取を行い,その分析を進めた.また,当初からの計画であった微化石やバイオマーカーに加え,メタゲノムを分析項目として加えたことでマルチプロキシー分析を,より充実した体制で行うことが可能となった.そのため,これらのデータを解析し,総括することをプロジェクトの到達点とすべく,1年間の研究期間延長を決定した.プロジェクト開始当初から,月に1度2時間程度オンラインミーティングを行い,データを最大限に活用して新規性の高い成果を得られるよう,情報の共有と議論を行っている.
最終年度となる今年度は,申請時の計画全体をカバーしつつ,さらなる成果の獲得に向けて,データの解析と総括を行っていく.St.1が代表する中海南部の飯梨川からの影響に対して,St.2,St.3にそれぞれ西部の斐伊川・宍道湖とその集水域からの影響,および北部の境水道か らの外洋の影響,をそれぞれ評価し,時空間的な変化を評価する. 本研究は,マルチプロキシー的手法により水域システム変化を解析することを目的としている.当初からの計画であった微化石(珪藻,パリノモルフ,貝形虫,有孔虫),バイオマーカーに加え,基礎生産者,一次消費者,および魚類等の高次生態系を解析するための環境DNA分析を導入した.最終的には,これら各分析結果の空間的(地理的)変化とその関連について議論を行うことで,計画以上に具体的な水域生態系像を得ることができると考えている.それらは研究論文とともに,一般向けのシンポジウムや著作物として公表し,普及活動を行う.
2022年度に予定していたAGUに参加できなかったため,より研究内容に親和的なINQUA(国際第四紀学会)に参加,セッション主催,研究成果の発表を行うことにした.また,2021年度までに予定していた試料の掘削が2022年に延期されたため,2023年度にも継続してその分析を行う必要があり,各分析用の試薬や消耗品を持ち越した.
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 1件) 図書 (2件)
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