研究課題
2021年度は東京湾岸部で過去に実施した常時微動観測のデータをもとに,東京低地の地盤の平均S波速度とH/Vスペクトルのピーク周波数,すなわち地盤の共振周波数を推定した.H/Vスペクトルのピーク周波数はばらつきが大きいものの,ピーク周波数に対応する地下の地層の物性境界は,湾岸部では多くの地点において,従来物性境界と考えられてきた七号地層/有楽町層境界よりも下位の,七号地層の砂泥互層中に位置することが示された.この不一致の原因として,七号地層の砂泥互層中や基底礫層上面の物性境界の影響を考えた.またH/Vスペクトルピーク周波数のばらつきは砂泥互層を構成する蛇行河川堆積物やエスチュアリー堆積物の不均一性に由来すると考えた.一方で東京低地のより内陸側で新規に常時微動観測を実施したところ,内陸側ではピーク周波数に対応する地下の地層の物性境界は七号地層/有楽町層境界あるいは埋没段丘礫層と有楽町層の境界におよそ相当することが確認された.ただしピークの形状,すなわち地盤震動特性は層相の構成により大きく変化することが示唆された.武蔵野台地を刻む谷の谷底低地のS波速度構造と地盤震動特性について検討した.台地を刻む谷の谷底低地には軟らかい泥層や腐植層などからなる沖積層が分布することが多いが,谷底低地は上流部へ向け沖積層の層厚が減ずることが予想され,その場合,基盤の地盤特性を反映して低地といえども堅固な特性を示すケースも考えられる.そこで谷底低地の地盤特性が下流から上流に向けてどのように変化するかを知るために,東京都心部の武蔵野台地を開析する小河川沿いにおいて,谷底低地を横断する複数の測線を設定し,常時微動観測を実施した.この結果は,本研究実施者らが作成に携わった東京都区部の3次元地質地盤図の成果を活用しながら,次年度以降にとりまとめる予定である.
2: おおむね順調に進展している
今年度は過去に取得した常時微動観測データの解析を実施したほか,新型コロナウィルス感染防止策を十分にとったうえで新規の野外調査を実施することができたため,おおむね順調に研究をすすめることができた.
新型コロナウィルス感染状況をみながら,引き続き東京都・埼玉県を中心に常時微動観測を実施する.沖積層の基底深度・堆積相分布を考慮して中川低地および荒川低地を横断する測線を設定し,測線上の多地点で常時微動観測を実施する.また武蔵野台地や大宮台地の更新統の谷埋め堆積物や台地を開析する小谷の谷底低地を対象に常時微動観測を実施し,地盤震動特性を検討する.検討結果は随時口頭発表および論文発表を行う.
今年度は新規に野外調査を実施することができたものの,新型コロナウィルス感染拡大により当初予定どおりとはいかず,十分には野外調査を実施することができなかったため.
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (11件) (うち査読あり 6件、 オープンアクセス 8件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 2件、 招待講演 1件)
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