研究課題/領域番号 |
20K04095
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
杉本 志織 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(環境変動予測研究センター), 研究員 (90632076)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 夏季天候 / 東アジア / 大気領域モデル |
研究実績の概要 |
20㎞分解能実験の領域にチベット高原上のみ水平分解能4㎞とした領域を埋め込んだ「20㎞-4㎞実験」の計算には膨大な時間が必要となることがわかったため、1991-2015年(25年分)の5-8月を対象とした20km分解能実験を精査し、適当な解析年を選定することにした。長江流域や九州地方で降水量が増加する6月に着目し、20km実験に含まれる降水量バイアスを調べた。数値実験にて再現された降水量は、長江の南で過小、北で過大となった。この南乾北湿バイアスは、特に降水量空間パターンの再現性が低い年で顕著となった。25年平均した大気循環場の気候値をみると、数値実験では太平洋高気圧の中心付近で積雲対流が活発となり高気圧性循環が弱まったため、中国南部への水蒸気供給が制限された。一方、南アジア域での対流バイアスに伴い、中国北部の対流圏上層には高気圧偏差が発生した。これと連動して、対流圏下層でも高気圧性循環バイアスが発達し、長江流域北部に弱い水蒸気収束を形成した。降水量空間パターンの再現性が著しく低い年においては、中国南部での対流抑制によって発達した高気圧偏差が水蒸気供給をより弱化させるとともに、より北への水蒸気輸送を活発にした。このように、数値実験内での対流活動に伴う広域循環偏差が、水蒸気輸送過程に関与し、東アジア域、特に中国長江流域での降水量に南乾北湿のバイアスを生じさせると結論付けた。異なる対流パラメタリゼーションを用いた感度実験を25年分実施することで、これら一連のモデルバイアスは対流パラメタリゼーションに大きく左右されることを示した。数値実験結果を国際プロジェクト(LS4P/TPEMIP)に提出するとともに、結果を論文としてまとめCliamte Dynamicsに投稿する。なお、20km実験で降水量の再現精度が高かった2010年を対象年と選定し、20km-4㎞実験を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績でも述べた通り、2021年度完了した25年分の20km実験結果を精査し、論文としてまとめ、2022年4月にClimate Dynamicsに投稿した。計画段階では、20km実験は比較対象として用いるためだけに作成する予定であったため、論文投稿は当初の予定になかった新たな成果といえる。また、GEWEX/GASSにて進行中の国際プログラムLS4P/TPEMIPに、20km実験結果を提出した。成果公表とともに国際的な研究活動に大きく貢献できたと考える。 昨年度の方針転換に基づき、20km-4㎞実験の対象年を選定することとした。20km実験を精査することで、再現性が良く、かつ、日本の夏季天候において異常昇温をもたらした2010年を研究対象年として選定することができた。そして、2010年を対象とした20km-4㎞実験を予定通り実施した。 以上、2021年度の方進転換も加味した上で、研究の進行状況を総合的に判断すると、おおむね計画通りに研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
選定した2010年は猛暑という観点で日本の夏季気候が異常であったが、降水量など別の観点で異常な年についても選定を進め、追加で20km-4㎞実験を実施する予定である。20km実験と20km-4㎞実験の両方を用い、日本周辺領域の広域循環場を比較することで、チベット高原上での対流活動が遠隔的に日本の天候を左右する要因について分析する。同時に、チベット高原上での雲ー降水過程が、空間解像度によってどのように変化するのかについても知見を得る。引き続き、LS4P/TPEMIPや他の国内外研究プログラムと情報交換を行う。また、論文としてまとめた20km実験の結果含め、関連学会で積極的に発表し、関連分野の研究者らと議論を深める。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度に引き続き、COVID-19の蔓延に伴い、国内外出張が大きく制限されたためである。2022年度の出張旅費やオンライン会議への参加、論文投稿費用に用いる予定である。
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