2種類の数値実験:アジア域を対象とした20km解像実験およびその内側にチベット高原上4㎞解像領域を設定した20km-4km実験の結果を解析した。20km実験での再現精度がある程度担保され、かつ、日本で記録的な猛暑が発生した2010年夏季を対象とし、再解析データと両実験結果を比較した。200hPa面の高度場について、20km解像実験では、日本北西の亜熱帯ジェット上に中心を持つ負バイアスがみられた。一方、20km-4km実験では、これらの負バイアスが著しく軽減した。対流圏下層である850hPaでも同様に、20km-4km解像実験では、20km解像実験でみられた太平洋高気圧北西~北縁での高度場の負バイアスが緩和された。結果として、20km-4km実験では、対流圏上・下層での高気圧の発達がより適切に再現され、日本を含む東アジア域の低温バイアスを20-50%改善した。チベット高原上での対流強化に伴う亜熱帯ジェット上のロスビー波伝播が、一連の再現性向上の要因である可能性が高い。夏季日本の猛暑を予測するためには、チベット高原上の対流活動を精度よく再現する必要があると考える。 研究期間全体を通じて得られた成果は以下の通りである。領域大気モデルを用い、20km解像実験(上述)を暖候期のみ25年分実施した。長江流域や九州地方で降水量が増加する6月に着目し、20km解像実験に含まれる降水量バイアスを調べた。西部北太平洋上の高気圧性循環に起因する乾冷移流バイアスと、南アジアおよびチベット高原付近を起点として中緯度を伝播する高度場バイアスが、東アジア域での降水量の再現精度を左右することがわかった。20km解像実験データを国際プロジェクト(LS4P/TPEMIP)に提出するとともに、成果をまとめた論文がCliamte Dynamicsにて出版された(Sugimoto et al. 2022)。2010年の猛暑に着目し、20km-4㎞実験を精査した結果は先に示した通りである。
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