研究課題
本研究では,我々が開発した地震波異方性の連続測定法(Ishise and Nishida, 2015)を活用し,地震波異方性の連続変化を通してみられる火山流体の振舞いによる応力場や構造の変化の推移を明らかにすることをひとつの目的としている。また,多種多様な火山観測データの徹底的な分析を行い,明らかになった地震波異方性の変化と火山現象を紐づけることも計画している.これらを達成することで,地震波異方性モニタリングによる火山活動の現状認識への貢献を図るための礎を築き,最終的には,観測波形即時解析による異方性リアルタイムモニタリングの火山監視体制への実装を目指している.この達成に向け,本研究では,①微動の震源決定方法の開発・実装,②既存の記録の異方性モニタリング,③異方性と火山活動の関連性の検討,の実施を計画している.今年度は,②既存の記録の異方性モニタリングに取り組んだ.現象がよくわかっていない火山地域で実施する前に,活動や構造などの現象に関する情報の多い地域での確認が必要と考えたため,今年度は,豊後水道から東に発展した既知の10個のSSEを含む延べ25か月間の連続記録の解析を実施した.その結果,地震波異方性パラメータ(dt,φ) とpolarizationパラメータの連続測定値を得た.このモニタリング結果から,微動活動中に測定が安定することが示された.また,得られた異方性パラメータは,観測点ごとに異なっており,同じ観測点ではイベントごとの明らかな違いは見られなかった.加えて,フィリピン海プレート内部の普通の地震を用いたS波スプリッティング解析を実施し,スロー地震期間に観測される地震波異方性と普段の地震で観測される地震波異方性を比較した.その結果,スロー地震期間中のdtが普通の地震から得られるdtよりも大きいことが示された.現在,このメカニズムについて検討を行っている.
2: おおむね順調に進展している
四国西部のスロー地震を含む地震記録の解析を進めることで,本研究で用いるIshise & Nishida (2015)の方法の特性がわかってきた.このことから,火山地域で適用するための準備は順調に進んでいると考えている.また,スロー地震地域の異方性の変化という新しい現象も捉えられており,そのメカニズムの検討も進められているため.
Ishise & Nishida (2015)では,グリッドサーチによって異方性パラメータの推定を行っている.そのため,最適解を得るまでの計算量が非常に多い.現在は,限られた観測点を対象にしているためGPUを活用することで対応できている.しかし,本研究では,全国に配備されている基盤観測網の全地震観測点において異方性モニタリングをリアルタイム(準リアルタイム)で実施することを考えている.この場合,GPUを用いる以外の別の対応策が必要だと考える.そこで,Ishise & Nishida (2015)の方法の異方性推定部分の計算の効率化についての検討に着手した.また,統計学的な見方を導入することで,観測された異方性の原因を特定する方法についても検討を行う.
計算方法について再検討を始めたため,当初予定していた計算機の購入は一旦保留とした.現在,手法を検討するとともに,これに適当な計算機のスペックや種類について調査中である.手法についての方針が固まり次第,備品として請求している経費を使用する計画である.また,国際学会の参加を予定していたがコロナウイルス感染症の感染拡大の影響により参加を取りやめたため海外旅費の使用はなかった.さらに,国内の学会についてもオンライン開催となったため旅費の使用はなかった.
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件)
Journal of Geophysical Research: Solid Earth
巻: 127 ページ: 1-19
10.1029/2021JB022161