研究課題/領域番号 |
20K04102
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
渡邊 了 富山大学, 学術研究部都市デザイン学系, 教授 (30262497)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 地殻 / 流体 / クラック / 電気伝導度 / 地震波速度 |
研究実績の概要 |
地震発生など,地殻のダイナミクスを理解するためには,観測量である地震波速度や電気伝導度から流体分布を推定することが不可欠である。しかし,流体の形状に関する理解が不十分であるため,流体分布を定量的には制約できていない。上部・中部地殻には様々なスケールのクラックが存在し,それらは地殻内の圧力によりほぼ閉じている。流体は,圧力下での「クラックの閉じ残り部分」に存在するはずである。本研究では,この「閉じ残り部分」の形状を理解するために,(1)クラック閉鎖に伴う物性変化に関する高圧実験,および(2)圧力下でのクラック閉鎖に関する数値実験(有限要素法)を行っている。 (1)クラック閉鎖に伴う物性変化に関する高圧実験 クラック(cmスケール)のある庵治花崗岩の円柱試料(直径26mm,長さ30mm)を作製し,含水状態での弾性波速度および電気伝導度を封圧下で測定した。クラックは,円柱試料をほぼ縦に2つに割るように存在している。電気伝導度は試料の軸方向で測定した。クラックを含む試料は,クラックのない試料と比べて,常圧では0.5-2桁,圧力150MPaでは1/3桁程度高い電気伝導度を示した。これは,150MPaではクラックがほぼ閉じること,閉じ残りの空隙が連結して存在していることを示している。 (2)圧力下でのクラック閉鎖に関する数値実験 有限要素法ソフトウェア(ANSYS Workbench Mechanical)とワークステーション(Lenovo)を購入し,圧力下でのクラック閉鎖に関する数値実験を行う環境を整備した。クラックのある円柱試料については,高圧実験前にX線CT画像を得ている。このCT画像を基に有限要素法のモデルを作成し,これに圧力を加える数値実験を行い,閉じ残りの空隙を基に電気伝導度を求め実験と比較していく予定である。現在は数値実験の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
高圧実験では,圧力媒体であるシリコンオイルの試料内への侵入を防ぐジャケットとしてシリコンゴムを使用した。このジャケットはクラックのない試料では全く問題がなかったが,クラックのある試料では,封圧50MPa程度でクラック付近のジャケットに穴が開き,オイルが侵入することが頻発した。そのため,150MPaまで実験できたのは1試料にとどまる。この問題を解決するため,ジャケット等実験方法の検討が必要であった。
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今後の研究の推進方策 |
(1)クラック閉鎖に伴う物性変化に関する高圧実験 50MPaを超える封圧でも測定を行えるよう,岩石試料のジャケットをシリコンゴムからFEP熱収縮チューブに変更する。また,熱収縮チューブを使用できるように,エンドピースのサイズも変更する。これらの変更を施した新しい試料アセンブリを用いて,クラックのある岩石の高圧実験を行う。実験では圧力増加にともなって弾性波速度および電気伝導度の変化を調べる。クラックのある岩石試料は実験前にX線CT画像を撮影し,常圧下での空隙構造を把握するとともに,有限要素法で使用する3次元モデルを構築する。
(2)圧力下でのクラック閉鎖に関する数値実験 球と球の接触(ヘルツ問題)のような解析解が知られている単純な接触問題を通して,有限要素法の扱いを学ぶ。その後に,クラック面で接する2つの岩石ブロックの接触問題に有限要素法を応用する。X線CT画像をもとに構築した3次元モデルに圧力を加え,どのようにクラックが閉鎖していくかを調べる,また,それに伴って弾性波速度や電気伝導度がどのように変化するかを調べ,高圧実験の結果と比較することにより,クラックの「閉じ残り部分」を理解する。常圧下でのクラック形状によって,高圧での閉じ残り部分の形状がどのように違ってくるかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
ジャケットの強度不足により高圧実験を予定よりも実施できなかったのが,主な理由である。翌年度に,熱収縮チューブをジャケットとして実験を行うために使用する。
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