地震発生などの地殻プロセスでは,地殻内の流体(主として水)が重要な役割を果たしている。地殻プロセスを理解するためには,地震波速度や電気伝導度から流体分布を推定することが必要である。しかし,地殻内での流体形状に関する理解が不十分であり,観測量から流体分布の定量的評価には至っていないのが現状である。地殻には様々なスケールの亀裂が存在し,亀裂表面には凹凸が存在している。圧力下ではアスペリティ(凸部)の接触が生じ,流体はこの接触部に支えられた「閉じ残り部分」に存在するはずである。本研究では,圧力下での接触部分の変形,および閉じ残り部分の形状を理解するために,(1)亀裂閉鎖に伴う物性変化に関する高圧実験,および(2)圧力下での亀裂閉鎖に関する数値実験を行った。高圧実験では,圧力増加の際にAE発生が検出され,亀裂閉鎖が微小破壊を伴うことが分かった。また,加圧後の亀裂表面には,微小破壊によって生じたと考えられる多くの微粒子が観察された。アスペリティ接触部の弾性変形のみを考慮した数値実験は,高圧実験で観察された電気抵抗の増加を再現できなかった。これも破壊が圧力下の亀裂閉鎖に関与していることを示唆している。亀裂閉鎖に破壊が関係していることから,数値実験による圧力下での「閉じ残り」形状の推定は困難である。今後は加圧した亀裂表面を系統的に解析することにより「閉じ残り」形状の理解を進め,地殻の流体量の定量的評価および,流体の地震への関与の理解につなげる必要がある。
|