研究課題/領域番号 |
20K04104
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
吉田 孝紀 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (00303446)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 古土壌 / ヒマラヤ / チベット / モンスーン |
研究実績の概要 |
中央ネパールのムスタン地方は,ヒマラヤ山脈の北側かつチベット高原南端に位置し,約2000万年前から現在までの堆積物記録を保存する.本研究は,この堆積物に含まれる古土壌層の解析を行い,古気候の変遷を解明することを目的としている.更にこのデータとベンガル海底扇状地における堆積物の変化との比較を行うことで,インド大陸北東部の気候変動とチベットの隆起との関連性の解明を目指す. 2020年以降,現地での試料採取が困難であるので,2019年に採取した試料の分析を進めている.特に今年度は,電子マイクロプローブを用いて古土壌の原材料に相当する未風化鉱物粒子の量比の定量化を行い,起源となる岩石種の特定に注力した.また,類似した地質帯を起源とする現世河川堆積物との比較を行った.その結果,以下のことが明らかとなった. (1)上部中新統の古土壌堆積物は,ルチル・電気石・角閃石・輝石が卓越し,ザクロ石・燐灰石・チタン鉄鉱・磁鉄鉱・黄鉄鉱がそれに続く.これらは花崗岩類や変成鉱物を含む片麻岩類を起源とすると考えられる. (2)ヒマラヤ山脈に由来する砕屑物に特徴的なザクロ石はわずかであり,変成岩類からの寄与は限定的である.しかし,ヒマラヤ変成岩を特徴付ける青緑色角閃石の混入が認められ,当時堆積盆地周辺に分布していた古期堆積物からの再堆積をも考慮する必要がある. (3)黄鉄鉱については,チベット南部を構成するテチスヒマラヤ帯を起源とする二次堆積物と考えられる.そのため,現在のヒマラヤ山脈構成岩を起源とする堆積物の二次的な移動が起こったと考えられる.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の計画として,野外研究実施期間を2020年秋から2021年初頭とし,ネパール国ムスタン地方での地質調査と試料採取,その後の試料分析を予定していた.しかし,2020年春より始まった,新型コロナウイルス感染症の世界的流行とそれに引き続く変異株の流行によって,海外調査そのものが困難となった.そのため,現地調査・試料採取が全く実施できなかった.また,すでに採取した試料の分析に際しても,日本国内での移動制限や他大学の分析機器の使用が制限されていたこと等によって,効果的に遂行することができなかった.結果として,既存試料の限定的な分析にとどまり,研究計画の多くの部分の実施が困難であった. しかし既存の試料を活用して,室内分析を進め,古土壌の材料の基本的構成を明らかにすることができた.
|
今後の研究の推進方策 |
現状では,南アジアでの新型コロナウイルス感染症の拡大は一定の水準に収まりつつある.これに伴い,ネパール国および日本での入国・出国の条件が緩和されつつあり,今年後半での調査再開の可能性が高まりつつある. また,これまでネパールの研究協力者と連絡を取り合い,彼らによって新たな試料を日本へ送付してもらった.当面はこの試料について化学分析と特定の鉱物種の化学分析,Nd-Sr同位体分析を行う.これらの方法によって,研究計画の達成に向けて努力する.
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の世界的流行とそれに引き続く変異株の流行によって,海外調査そのものが困難となった.加えて,予定していた既存試料の分析も,国内での移動制限等によって,限定的に実施されたのみであり,研究計画の多くの部分の実施が困難であったため,次年度使用額が生じた. 今後の使用計画として,本年度秋期での海外調査再開を目指して準備を行い,試料採取ができた際にはその分析に使用する.
|