研究課題
本研究課題の目的は,様々な地域から採取した岩石に記録された変質作用の相違点と共通点を明らかにし,海洋地殻深部における変質作用を支配する物理化学的および地質学的要因を明らかにすることである。主な研究対象は,様々な拡大速度を持つ中央海嶺近傍や陸上に露出するオフィオライトから採取された斑れい岩である。また斑れい岩に伴って産する上部マントル起源のかんらん岩についても分析を行い,これと比較することで下部地殻の変質作用の特徴を明らかにし,海洋リソスフェアにおける岩石-水相互作用の全体像の理解を目指して研究を行ってきた。このうち昨年度は,Hess Deepの斑れい岩類の試料切断の際に生じたカッテイングスを材料にして掘削試料の化学分析の新技法を開発し,国際誌上で発表した。またオマーンオフィオライトの斑れい岩類について,蛇紋石と緑簾石の分布と組成変化の分析に基づいてそれらの生成条件に不一致があることを明らかにし,結果を国際誌に投稿した。また一昨年度に明らかにした変成蛇紋岩中に産する滑石の組成多様性について,昨年度はさらに分析試料を増やしてその普遍性を検討した。その結果,後退変成作用で生じた滑石がかんらん石と共存していることを新たに明らかにした。このことは滑石の生成温度条件が500℃前後であったことを示唆する。さらに海洋下部地殻の岩石試料からは,かんらん石中に輝石と鉄鉱石のラメラが多産することが見つかった。このラメラの産状とかんらん石の化学組成を分析した結果,ラメラは火成活動後の冷却過程においておよそ800℃の温度で,変形作用に伴って生じた可能性が高いことを明らかにした。このように明らかにした滑石の生成条件とラメラの生成条件をより明確にするため,透過電子顕微鏡とICP質量分析計による分析を行い,発表準備を進めているところである。
2: おおむね順調に進展している
新型コロナ感染症の拡大によって野外調査と試料採取が十分にできない期間があり,当初計画していた分析作業が昨年度後期にずれ込んだ。分析作業のかなりの部分は遂行できたが,まだデータ不足を補うための追加実験が必要であり,結果公表の準備も必要であるため事業期間を1年延長した。
変成蛇紋岩中の滑石と斑れい岩中のかんらん石離溶組織について,今年度中に追加実験とデータのまとめを行い,結果を学会で報告し,論文にまとめる予定である。
昨年度と同様に新型コロナ感染症対策のため,当初計画していた分析費用を次年度に繰り越した。また学会への参加はオンラインとし旅費を使用しなかった。結果として生じた繰越金は,次年度の研究遂行に必要な物品費として適正に使用する予定である。
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Scientific Drilling
巻: 31 ページ: 71-84
10.5194/sd-31-71-2022