研究課題
本研究の目的は,様々な地域から採取した岩石に記録された変質作用の相違点と共通点を明らかにし,海洋地殻深部における変質作用を支配する物理化学的および地質学的要因を明らかにすることである。様々な拡大速度を持つ中央海嶺近傍や陸上に露出するオフィオライトから採取された斑れい岩と,これに付随する上部マントル起源のかんらん岩を主な研究対象として,海洋リソスフェアにおける岩石-水相互作用の全体像の理解を目指して研究を行ってきた。研究期間を通じて,1)オマーンオフィオライト斑れい岩中のかんらん石の蛇紋石化と斜長石の緑簾石化の不適合性の発見とその原因解明,2)海洋下部地殻斑れい岩中のかんらん石に生じた輝石-鉄鉱石ラメラの成因推定,3)海洋掘削試料切断の際に生じた岩屑を利用した斑れい岩類の化学組成および変質鉱物モード組成分析の新技法開発,4)西南日本のオフィオライト蛇紋岩中に産するFeモンチセライトの発見とその成因の解明,5)西南日本の変成蛇紋岩中の滑石の組成多様性(特にNaの濃集)の発見とその原因の推定,6)西南日本の変成蛇紋岩の後退変成作用によって生じた滑石-かんらん石共生の発見とその温度条件の推定,などの成果を上げてきた。昨年度は変成蛇紋岩中の滑石についてレーザーアブレーションICP質量分析計による微量元素分析を行った。レーザー照射によるダメージが大きいために高精度の分析値は得られなかったが,Naに富む滑石はCsやLiなどにも富んでいることが明らかになった。これはかんらん岩の変質作用に伴う元素移動を理解するうえで重要な新知見である。さらに昨年は国際深海科学掘削計画(IODP)第399次航海で大西洋中央海嶺付近から採取された斑れい岩類と蛇紋岩化かんらん岩を観察した。これらの試料の今後の分析が海洋リソスフェアにおける岩石-水相互作用の全体像の解明につながるものと期待される。
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International Ocean Discovery Program Preliminary Report
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Journal of Metamorphic Geology
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