研究課題
安定同位体は、様々な化学・生物反応過程において、質量依存分別を生じるため、自然界における物質反応過程を解読する為の優れたトレーサーである。一方で、安定同位体は個々の反応過程において、平衡論的同位体効果(EIE)と速度論的同位体効果(KIE)を生じるが、2つの同位体(=1つの同位体比)では、EIEとKIEを判別する術を持たない。これを解決するのが、3安定同位体法である。本研究では、申請者がこれまで開発してきた3酸素同位体解析法に加え、ケイ素、遷移元素等の安定同位体解析法を開発し、小惑星や初期惑星系における固液気相間反応過程、初期惑星表層における生命活動痕跡解読、初期地球表層温度推定等の研究に応用することを目的としている。令和3年度には、マグネシウム、ニッケル、クロム、カルシウム同位体分析方法の開発および酸素・ニッケル・マグネシウム・クロム・カルシウム同位体分析を用いた応用研究を行った。分析方法の開発においては、岩石試料から、当該元素の単離技術の開発と改良化、および同位体分析方法の開発を行った。同位体分析については、ニッケルは、マルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析計(MC-ICP-MS)を、クロムおよびカルシウムは、表面電離型質量分析計(TIMS)を、酸素はガスソース同位体比質量分析計(IRMS)を用いた。応用研究の代表例として、①3酸素同位体を用いて海底熱水系における、海水―玄武岩反応過程の解明、②酸化グラフェン膜-水間における、酸素・水素同位体分離メカニズムの解明、③小惑星リュウグウ試料の水素、炭素、窒素、酸素、クロム、カルシウム同位体を用いた、C型小惑星の起源と進化、④生物代謝活動によるニッケル同位体分別過程、⑤非生物起源ニッケル同位体分別過程、等の研究を行った。
2: おおむね順調に進展している
ニッケル同位体分析方法の開発法に関する論文は国際誌に1編の論文を出版した。さらにマグネシウムおよびリチウム同位体分析方法に関する論文を国際誌に投稿中である。酸素同位体を用いた応用研究については、国際誌に3編の論文が出版され、2編が投稿中である。酸素、クロム、カルシウム同位体を用いた応用研究については、国際誌に1編の論文が受理された。これに加え、ニッケル同位体を用いた応用研究については、2つの研究課題が、マグネシウム同位体を用いた応用研究は1つの研究課題が、クロム、カルシウム同位体を用いた応用研究は1つの研究課題が進行中であり、令和4年度中には論文投稿を行う予定となっている。以上に示したように、本課題研究はおおむね順調に進展している。
本研究課題により、酸素同位体分析方法の高度化、ケイ素、マグネシウム、カルシウム、クロム、ニッケル同位体高精度分析方法の開発を行った。自然界における物質反応過程を解読するためには、個々のプロセスにおいて異なった化学的挙動を示す複数の元素を統合的に用いることが効果的である。従って、令和4年度にはこれらの分析方法の統合化を図ることにより、極微量試料中からのマルチ同位体分析方法の開発を完成させる。さらに、この方法を用いて、生物・非生物起源同位体物質反応解読法の開発を引き続き行う。研究代表者が所属する機関は、JAXAはやぶさ2プロジェクトにおける小惑星リュウグウ試料解析を行うためのPhase2キュレーションに指定されている。令和3年度には、本研究課題で開発してきた方法を用いて、小惑星リュウグウから回収された試料の総合化学分析を行った。令和4年度も引き続き小惑星リュウグウ試料の同位体分析を行うことにより、初期太陽系における物質進化に関する研究を行う。
令和3年度に計画していた国内、海外旅費について、新型コロナ感染拡大のため全て中止となったため、これらの経費を使用しなかった。また、令和3年度のエフォートの大部分は、小惑星リュウグウ試料解析を行うためのPhase2キュレーション活動としての研究に割かれたため、これらに用いた質量分析計消耗品の一部については、他の予算からの支払いが可能となった。これに加え、本研究課題を達成するうえで、令和4年度には、特に生物代謝活動に関する同位体分別にかかる実験器具および消耗品経費が、当初計画していた以上の支出となることが予測されたため、令和3年度一部予算を次年度に繰り越すように計画的に使用した。令和4年度には、実験・分析に関わる消耗品費用および本研究課題の成果発表に関する旅費、論文出版費が前年度以上に支出する計画となっている。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 4件、 査読あり 7件、 オープンアクセス 3件) 備考 (1件)
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