地球内部の温度は現在でも不確かな物理量の一つである。地球マントル内の温度構造は主に2つの地球内部活動により形成されていると考えられている。一つは,熱伝導による熱輸送が支配的である沈み込みスラブ由来によるもの,もう一つは,対流熱伝達が卓越するマントルの対流活動によるものである。スラブ・マントルの両者の鉱物組成ならびに熱輸送機構の違いを反映して,マントル内部は極めて不均質な温度構造が実現していると考えられている。本研究では,高精度な理論予測手法の一つとして知られる第一原理計算技術を駆使して,沈み込みスラブ上面の玄武岩組成層の構成鉱物および中・下面のパイロライト構成鉱物の格子熱伝導率を下部マントル条件で決定し,スラブの沈み込みに由来する下部マントルの温度不均質構造の制約を目指すものである。当該年度は地球深部におけるMORB構成鉱物と考えられるカルシウムフェライト型のアルミナス相,ならびに,カルシウムペロブスカイトの低温相に対する第一原理計算を実施し,両鉱物の格子動力学特性(格子振動数・格子波の速度・比熱)および格子波-格子波相互作用にともなう格子波の減衰特性を決定し,これらの熱物性値を用いたフォノン-ボルツマン方程式を構築・解くことで両物質の格子熱伝導率を決定した。また,ペリクレイスの熱伝導率に対する下部マントル温度・圧力条件下における鉄固溶効果を調べ,鉄の固溶に伴う大きな熱伝導率の減少を見いだした。
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