本研究では,宇宙線に伴う中性子捕獲反応により変動する白金族元素の安定同位体をトレーサーとして,堆積物中から巨大隕石衝突以外の宇宙物質流入履歴を見積もる新しい手法を確立することを目的としている.特に,宇宙物質流入量の突発的増加が記録されている可能性の高い顕生代の堆積物試料に対して安定同位体比を連続的に調べることで,宇宙物質流入量がどのように変動したかを明らかにする. 令和2年度は,宇宙物質流入履歴を復元する上での最適試料として,宇宙塵大量流入イベントが示されたペルム紀-三畳紀境界(付加体層状チャート),巨大隕石衝突イベントの記録が復元されている白亜紀-古第三紀境界(陸生層)および三畳紀-ジュラ紀境界(遠洋性石灰岩)の堆積物を対象に石英製ガラスチューブを用いた同位体希釈-質量分析法による高時間解像度での白金族元素濃度およびオスミウム同位体比の試験分析を行った.その結果,それぞれの時代の堆積物中から白金族元素高濃度層を検出するに至った.得られた結果をもとに,高精度での白金族元素安定同位体比分析を行うための最適試料量の調整および質量分析に至る手順の最適化に着手した.具体的には,石英製ガラスチューブによる試料の分解,溶媒抽出によるオスミウムの単離・陰イオン交換樹脂による白金の単離を行い,マルチコレクター誘導結合プラズマ質量分析法および負イオン表面電離型質量分析法で良好な分析精度が得られる試料量の調整を行なった.
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