研究課題
本研究では,宇宙線に伴う中性子捕獲反応により変動する白金族元素の安定同位体をトレーサーとして,堆積物中から巨大天体衝突だけでなく微小サイズの宇宙物質流入履歴を見積もるための新しい手法を確立することを目的としている.そのため2022年度は,高精度での安定同位体分析を行うための試料作成を行った.特に,白金族元素高濃度試料を確保するため,巨大天体衝突イベントによる宇宙物質流入量の突発的増加が記録されている白亜紀-古第三紀境界(陸生層,海底堆積物)および後期三畳紀(付加体層状チャート)の堆積物試料を用いて,石英ガラス製チューブを用いた同位体希釈-質量分析法による高時間解像度での白金族元素濃度およびオスミウム同位体比分析を行った.その結果,それぞれの時代の堆積物中から白金族元素高濃度層を見出したため,隕石由来元素の濃縮作業に着手した.具体的には,粉末化した試料をふるいにかけ,250ミクロン以下の粒子の回収を行い,超音波洗浄後に外部磁場により磁性分離を行った.さらに,安定同位体分析法確立に向けた最適試料量を決定するため,特に白金族元素高濃度層に含まれるニッケルに富む磁鉄鉱粒子などの天体衝突起源粒子の濃縮試料の作成を行った.隕石を対象とした先行研究によると,高精度でのオスミウム・白金安定同位体分析には100 ng程度の単離元素が必要とされているため,堆積物試料中の同位体異常を捉えることが可能な試料量の調整も進めている.
2: おおむね順調に進展している
2022年度は,堆積物を対象とした高精度での安定同位体分析を行うための試料を準備するため,巨大天体衝突イベントによって形成された堆積物(イジェクタ層)に着目し,白金族元素濃度およびオスミウム同位体比の試験分析を行った.その結果,白金族元素高濃度層を検出するに至った.得られた分析結果をもとに,隕石由来元素の濃縮試料の作成に着手し,安定同位体分析を行うための最適試料の調整が完了している.堆積物中から白金族元素の安定同位体異常を捉えるために必要不可欠であるオスミウムや白金などの濃縮試料が作成が計画通り進んでいるため,本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した.
これまでの白金族元素濃度およびオスミウム同位体分析により,白金族元素高濃度層の絞り込みおよびそれらの濃縮試料の作成が終わっているため,次年度は濃縮試料を用いてオスミウムおよび白金の安定同位体分析のための測定溶液の準備に着手する予定である.本手法では,オスミウム単離後の白金の純化作業がデータの質を大きく左右すると考えられるため,石英ガラス製チューブによる濃縮試料の分解後は,溶媒抽出によるオスミウムの単離および陰イオン交換樹脂による白金の単離を行う計画である.
白金族元素安定同位体分析のための試料調整に使用した消耗品や実験器具については,既存の物で対応可能な部分があったため,それらの購入を見合わせた.次年度は,白金族元素濃縮試料を用いてテスト分析を行う予定のため,試料分解のための試薬や分析機器の消耗品を購入するために使用する計画である.
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 6件)
Journal of Analytical Atomic Spectrometry
巻: 37 ページ: 1600~1610
10.1039/D2JA00089J
Palaeogeography, Palaeoclimatology, Palaeoecology
巻: 606 ページ: 111250~111250
10.1016/j.palaeo.2022.111250