研究課題/領域番号 |
20K04120
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
日置 幸介 北海道大学, 理学研究院, 教授 (30280564)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 福徳岡の場 / フンガトンガ / プリニー式噴火 / QZSS / TEC / 大気モード / ラム波 / 電離圏擾乱 |
研究実績の概要 |
準天頂衛星システム(QZSS)を用いた電離圏研究の最大の利点は、旧来のGPS等と異なり長時間連続して電離圏全電子数(TEC)を観測できるところである。今年度はその利点を利用して二つの実績を成し遂げ、学術論文とした。 最初の成果は2021年8月に大規模な連続噴火(プリニー式噴火)を行った南硫黄島の近くにある海底火山、福徳岡の場に関するものである。我々は小笠原父島、母島、硫黄島にあるGNSS点で受信されたQZSSの静止衛星のデータを利用し、長時間の連続TECデータをスペクトル解析することによって、大気の固有振動である周波数3.7 mHzのTECの振動と、高調波にあたるより高い三つの周波数の振動が起こっていたことを突き止めた。また、その振動の振幅が数時間の時定数で徐々に弱まってゆく(プリニー式噴火が弱まってゆく)様子をとらえることができた。これは2021年12月にEPS誌に投稿され、2022年に掲載された。 二つ目の成果は2022年1月に大規模な噴火を起こしたトンガのフンガトンガ・フンガハアパイ海底火山から伝搬してきた大気ラム波によって二次的に引き起こされた電離圏擾乱に関するものである。速度0.3 km/sで日本列島を駆け抜けた大気圧の波動は様々な気象センサーでとらえられた。我々はQZSS静止衛星を用いたTECの四日間の連続記録から、噴火数時間後に短い経路(short path)を伝わってきた音波、遠い経路(long path)を伝わってきた音波、さらにそれらが地球をもう一周して日本にやってきた音波による電離圏擾乱を検出することができた。また大気圧の変動に先立って電離圏擾乱が発生することを突き止め、そのメカニズムを説明する簡単な物理モデルを提唱した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は、2021年8月の福徳岡の場の噴火、2022年1月のフンガトンガ海底火山の噴火と、大規模な火山噴火が相次いだ。またそれらの噴火がもたらした電離圏擾乱が、QZSSの長時間連続TECが有利に働く性質を持っていたためである。具体的には前者の噴火では四種類の大気モードの周波数の同定で、これは長時間の連続TEC記録がなかったら不可能であった。また後者の噴火では日本列島を何度も大気ラム波が通過したため、それらの検出にQZSS静止衛星を用いた連続TECが重要であった。これらの火山噴火は偶然ではあるが、いずれもこの科研費で謳っているQZSSによる電離圏研究の有利性を際立たせるものであった。前者はすでにEPS誌によって出版されており、後者についても同じくEPS誌に2022年3月に投稿することができた(現在査読中)。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題は順調に成果を生み続けているが、新年度は2022年3月に投稿した論文の出版に向けた改訂が最初の作業となるだろう。また成果が火山噴火がもたらす電離圏変動という特定の領域に集中している傾向があるが、新年度は本来目指した様々な電離圏擾乱に対する準天頂衛星システムを利用した研究を推進してゆきたい。また中国のGNSSであるBeidouも日本のQZSSと同様に静止衛星を複数個有している。我が国のGNSS網の受信機は残念ながらBeidouの信号を受信していないが、世界中の多くのGNSS局ではQZSSに加えてBeidouも受信している地上局は多い。新年度はそれらを用いて、より広い地理的範囲で本研究課題の対象となる現象を探してゆきたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
COVID19の影響で、国内外学会参加のための旅費が執行できなかったことがその理由である。新年度は旅行がより自由となって旅費としての本来の予算執行が可能になることを期待している。
|