研究課題/領域番号 |
20K04124
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
興野 純 筑波大学, 生命環境系, 准教授 (40375431)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 非晶質炭酸マグネシウム / 水苦土石 / ネスケホン石 / ダイピング石 |
研究実績の概要 |
近年,環境問題には大きな関心が寄せられているが,中でも地球温暖化は関心が高い問題である.地球温暖化対策としてCO2地中固定技術に注目が集まっている.CO2地中固定技術は,CO2を炭酸塩岩として地中に固定する方法であり,この方法が現在最も安定的に長期間CO2を固定できる有力な方法と考えられている.炭酸マグネシウム水和物は地下に固定される主要な鉱物種の一つである.炭酸マグネシウム水和物は地下水の温度により,沈殿する相が変化する.また,炭酸マグネシウム水和物の前駆体として形成される非晶質炭酸マグネシウム(AMC)の存在も知られているが,その温度依存性についてはほとんど理解されていない.そこで本研究では,異なる温度で沈殿する炭酸マグネシウム水和物とAMCに対して,放射光X線全散乱測定とPDF解析を行い,結晶相と前駆体のAMCの構造を比較し,炭酸マグネシウム水和物の形成プロセスを明らかにした. AMCと炭酸マグネシウム水和物相は,塩化マグネシウム水溶液と炭酸ナトリウム水溶液を,20,60,80 oCの温度で混合し合成した.放射光X線全散乱測定は,BL22XUに設置されたκ型多軸回折計を用いた. 測定の結果,ダイピング石の短距離・中距離秩序は,水苦土石に非常に類似しており,ネスケホン石とは明らかに異なっていた.また,AMCは20 oCから80 oCでほぼ同一の短距離秩序を持ち,この温度範囲ではAMCは低温相-高温相に区別されないことが明らかになった.さらに,5Å付近までの短距離秩序を比較すると,AMCの構造は,ダイピング石と水苦土石の構造に酷似していた.したがって,AMCからネスケホン石が結晶化するときには,AMCの構造が再構築していることが示唆され,一方で,ダイピング石および水苦土石は,AMC構造を維持して結晶化していると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度において,Spring-8のBL22XUにて,炭酸マグネシウム水和物と非晶質炭酸マグネシウム(AMC)の全X線散乱強度を細かく測定することが出来た.当初の計画では,非晶質炭酸カルシウム(ACC)の非晶質構造解析を実施する予定であったが,より差が明瞭な炭酸マグネシウム水和物をターゲットに選んだ.これによって,炭酸マグネシウム水和物の構造の温度依存性が明らかになった.今後は,詳細な原子対分布関数(PDF)解析によってAMCから結晶相への構造変化を明らかにする予定である.また,AMCの非晶質構造解析の結果は,当初予想していた結果とは異なり,低温相-高温相に区別されないことが明らかになった.今後は合成条件を変えて実験を実施し,AMCのポリアモルファスの可能性を検証していく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
2年目は,AMCのポリアモルファスの可能性を検証する.AMCを様々な条件下で合成する.はじめに蒸留水500mlにMgCl2・6H2Oを加えMgCl2・6H2O水溶液を作成する.次に,① Na2CO3,② K2CO3,③ Rb2CO3,④ Cs2CO3のCO3源を用いて4種類の炭酸塩水溶液を500mlずつ作成する.続いて,MgCl2・6H2O水溶液と①から④のそれぞれの水溶液を混合し混合溶液を作成する.4種類の混合溶液から晶出した沈殿物を,蒸留水で洗浄しながら1μmフィルターでろ過して,室温で風乾させ回収する.試料は大気中の水蒸気の吸着を防ぐため,放射光実験の直前まで真空デシケーター内で保存する.放射光X線全散乱測定は,大型放射光施設BL22XUにて行う.試料は測定直前に,カプトンフィルム製の試料キャピラリーに充填する.その後,キャピラリーを測定位置にセットし,放射光X線全散乱測定を実施する. その後,2体相関分布関数 (atomic Pair-Distribution Function, PDF)解析を行ない,AMCの構造を明らかにしAMCのポリアモルフィズムを示す.そして,どのAMCがどのように炭酸マグネシウム水和物に転移するか構造変化のプロセスを捉える.
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次年度使用額が生じた理由 |
SPring-8での実験が中止になり,米国地球物理学会(AGU)の現地開催も中止になったため.今年度の旅費および試薬購入費に充てる
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