最終年度は,水溶液中で非晶質炭酸マグネシウムからネスクホナイトに結晶化する過程で,水溶液中のアルカリ金属イオンがネスクホナイトの結晶化にどのような影響を及ぼすかについて調べた.Na2CO3,K2CO3,Rb2CO3,Cs2CO3の4種類の異なる水溶液から非晶質炭酸マグネシウムを合成し,その後,水溶液中での非晶質炭酸マグネシウムの時間変化を,粉末XRD測定,PDF解析および,XAFS測定を用いて調べた.実験の結果,Na2CO3,K2CO3を出発物質に用いた場合は,ネスクオナイトに結晶化するが,Rb2CO3,Cs2CO3を用いた場合は,ネスクオナイトの結晶化が抑制されることが明らかになった.このことは,ネスクホナイトの結晶化は,水溶液中のアルカリ金属イオンの影響を受けることを示しており,地下水のアルカリ金属イオン濃度が重要な要素となる可能性を示唆した.また,PDF解析の結果から,非晶質炭酸マグネシウム形成直後とネスクオナイト結晶化直前の非晶質炭酸マグネシウムでは,非晶質炭酸マグネシウムの構造がそれぞれ異なることが示され,著者はそれぞれをAMC-I構造,AMC-II構造と命名した.これによって,非晶質炭酸マグネシウムには,複数の非晶質構造「ポリアモルフィズム」が存在していることを明らかにした.さらに,炭酸マグネシウム水和物の熱分解の過程で出現する非晶質炭酸マグネシウムは,ネスクオナイトとダイピンジャイトの場合は,熱分解過程でAMC-I構造を持つ非晶質炭酸マグネシウムが出現するのに対し,ハイドロマグネサイトには,熱分解過程でAMC-IともAMC-IIとも異なる非晶質相が出現することを明らかにした.本研究の結果は,非晶質炭酸マグネシウムのポリアモルフィズムの存在をより確実なものにし,非晶質炭酸マグネシウムの複雑な挙動を明らかにした.
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