研究課題/領域番号 |
20K04128
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
水上 知行 金沢大学, 地球社会基盤学系, 助教 (80396811)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 沈み込み境界 / マントルレオロジ― |
研究実績の概要 |
本研究の変形組織観察、結晶方位解析および酸化デコレーション法を用いた転位観察によって、沈み込み境界由来の三波川変成帯に産する東赤石かんらん岩体のかんらん岩の知見に加えて、島弧下マントルの断片である幌満かんらん岩体においても、含水条件において(1)転位クリープ、(2)転位律速粒界すべり(DisGBS)クリープ、(3)拡散クリープの3つのメカニズムが競合、もしくは支配的になった痕跡が見出された。高性能のFE-SEM-EBSDシステムを用いた、高解像度かつ高精度のEBSDマッピングにより、流動変形下で細粒粒子を生み出す動的再結晶過程として3種のメカニズムが競合していることが明らかとなった。特に、これまで実験室でしか知られていなかった反応-拡散による粒子形成が、天然のかんらん石-直方輝石系で起こっている証拠が得られたのは重要な成果である。さらに、幌満岩体の変形構造の空間的な多様性から、マントルかんらん岩が応力や歪み量、歪み速度に応じて多様に再結晶メカニズムを変化させ、変形メカニズム遷移を伴いながら複雑に変形挙動を変化させている様子が見えてきている。これらの産状は、上部マントルが非定常的なクリープ挙動を示すことを示唆しており、沈み込み帯の歪み解消過程に新たな視点を与える。 並行して、次世代の転位観察法として注目される、電子線チャネリングコントラストイメージング(ECCI)を造岩鉱物に適用するため、最適な表面加工の方法を模索し、かんらん石中の転位の可視化に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度は、FE-SEMを用いた構造解析および観察体制の確立に力点を置いた。金沢大学材料工学研究室設置のFE-SEM-EBSDシステムを本格的に使用し始め、分析のルーティンを作ることができた。日高帯幌満かんらん岩体の南部剪断帯かんらん岩5試料についてEBSDマップ分析を行ない、粒子分析や結晶選択配向のデータから、再結晶メカニズムや変形メカニズムの推定が進められている。合わせて、酸化デコレーションによる転位観察を行ない、転位密度から差応力条件の推定を行なった。大きな成果として再結晶メカニズムの多様性を見出すことができた。その意義を高めるため、より精密に粒子分類法を検討し、正確なメカニズムマップを描いた上で、変形挙動との関連性を議論していきたいと考えている。 本研究の目標の一つであるECCIによる転位観察の実用化について大きな進展があり、様々な検討の結果、転位の可視化に成功することができた。炭素の導電膜を連結性を保ったまま薄く蒸着させることが重要であることや、乱れのない鉱物表面を作るための加工のノウハウをつかむことができた。 また、幌満岩体の北部剪断帯(南部剪断帯とは微細構造が異なる)について、野外調査および試料採取を実施した。岩石薄片の観察を済ませて、次の段階に進める状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度には、幌満岩体の変形の温度圧力条件を制約するために、岩石学的な研究を行なう。また、幌満岩体北部剪断帯の採取試料について、FE-SEM-EBSDによる構造解析を行ない、南部剪断帯と同様に変形及び再結晶メカニズムの特定をする。これらの結果をもとに、幌満かんらん岩体の変形挙動を再結晶履歴を体系的に理解し、粒径依存型クリープの実態と歪み解消プロセスをモデル化する。本研究の主要課題の一つである「ECCIによる転位観察」を上記の構造解析と並行して進めていく。改造の高いECCI像を基に転位すべり方向の推定や転位密度の測定に取り組み、変形メカニズムの議論に組み込みたい。令和4年度に論文原稿の作成に着手することを目指して研究を進め、解析データの質の向上や議論の改善に努めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
FE-SEM-EBSDによる構造解析を令和4年度にも行なうために、装置使用料を繰り越した。また新型コロナウィルス感染防止のため学会参加のため出張を控えた。次年度も出張に制限があることが想定されるが、その場合は分析機器の使用やデータ解析に重点を置いて予算を使用する計画である。
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