本研究では、世界で最も新鮮(非変質)とされる幌満かんらん岩体の縦断的な構造解析によって、島弧下マントル条件から島弧衝突に伴う上昇過程で変遷してきた変形組織を読み解いた。その結果は、従来の構造発達の解釈を刷新すると同時に、異なる条件下での変形構造を読み取る基盤となるものである。 さらに、変形組織観察、結晶方位解析および酸化デコレーション法を用いた転位観察によって、含水条件において(1)転位クリープ、(2)転位律速粒界すべり(DisGBS)クリープ、(3)拡散クリープの3つのメカニズムが競合、もしくは支配的になった痕跡が見出された。高性能のFE-SEM-EBSDシステムを用いた、高解像度かつ高精度のEBSDマッピングにより、流動変形下で細粒粒子を生み出す動的再結晶過程として、亜粒回転、バルジング、反応を伴う核形成の3種のメカニズムが競合していることが明らかとなった。特に、これまで実験室でしか知られていなかった反応-拡散による粒子形成が、天然のかんらん石-直方輝石系で起こっている証拠が得られたのは重要な成果である。さらに、幌満岩体の変形構造の空間的な多様性から、マントルかんらん岩が応力や歪み量、歪み速度に応じて多様に再結晶メカニズムを変化させ、変形メカニズム遷移を伴いながら複雑に変形挙動を変化させている様子が見えてきている。これらの産状は、上部マントルが非定常的なクリープ挙動を示すことを示唆しており、沈み込み帯の歪み解消過程に新たな視点を与える。 並行して、次世代の転位観察法として注目される、電子線チャネリングコントラストイメージング(ECCI)を造岩鉱物に適用するため、最適な表面加工の方法を模索し、かんらん石中の転位の可視化に成功した。
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