研究課題/領域番号 |
20K04130
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
山下 茂 岡山大学, 惑星物質研究所, 准教授 (30260665)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 岩石・鉱物・鉱床学 / マグマ / 水 / 高温高圧実験 / 噴火 |
研究実績の概要 |
マグマにどのくらいの水が溶け込めるのか(溶解度)についての実験データが玄武岩や流紋岩といった極端な組成のマグマに偏っており、中間的な組成である安山岩マグマの実験データがほとんどないことに問題意識を持ち、そのデータギャップを埋めるべくこの研究を始めた。マグマへの水の溶解度はマグマの浮力や過剰圧といった噴火事象に直接関わる過程を考える上で必須のパラメータである。本邦のようなプレート沈み込み帯の火山弧では安山岩組成のマグマが大量に噴出しており、この研究を行う社会的意義は大きいと考えた。 前年度までの溶解度実験では、箱根火山本小松溶岩(産総研標準物質JA1)の組成を持つ安山岩マグマへの水の溶解度は同じ圧力温度条件の流紋岩マグマに対して10~20%(相対)程度大きいこと、この安山岩マグマ中の水の溶解種間平衡は同じ圧力温度条件の流紋岩マグマと測定誤差の範囲内で一致すること、が明らかになった。令和4年度は、同様の実験を組成の異なる安山岩マグマへ拡張するタスクに着手した。これまでに阿蘇火山玉来川溶岩の組成を持つ安山岩マグマについて実験を行い、この安山岩マグマへの水の溶解度ならびに水の溶解種間平衡が、同じ圧力温度条件の箱根火山安山岩マグマと測定誤差の範囲内で一致することを見出した。これら2種類の安山岩マグマのあいだで水以外で最も含有量変化が大きい成分はカリウムであり、阿蘇火山安山岩マグマは箱根火山安山岩マグマの5倍のカリウム成分を含む。この変化は、典型的なプレート沈み込み帯火山弧である日本列島に産出する安山岩のカリウム成分含有量レンジをカバーしており、今回の実験結果はプレート沈み込み帯火山弧の安山岩マグマへの水の溶解現象を代表しているとみなせるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究代表者のエフォート割当の見積もりが甘く、令和4年度ぶんとして当初計画していたほどの進捗を得ることができなかった。実験の対象を当初の箱根火山安山岩マグマから組成の異なる他の安山岩マグマへ拡張し、プレート沈み込み帯火山弧の安山岩マグマへの水の溶解現象(水の溶解度と溶解種間平衡)をおおづかみに制約することには成功したが、当初の目的に掲げた、天然の噴火現象への応用を視野に入れた溶解度モデルの構築へと進むことはできなかった。令和5年度では溶解度モデルの構築に重点的に取り組むことで遅れを解消していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験で得た安山岩マグマへの水の溶解度データを、既存の流紋岩、玄武岩組成のマグマへの水の溶解度データとあわせて圧力、温度、水蒸気フュガシティーの関数として平衡条件式のかたちに整理し、マグマへ水が溶解する反応に関わる熱力学的パラメータを非線形最小自乗法により最適化する。こうして、広い組成範囲の天然マグマへの水の溶解度を再現する溶解度モデルを構築する。特に、これまでなおざりにされてきた安山岩マグマへの水の溶解度を精度良く再現するよう留意する。 同時に、これまでに得た溶解度データの確度をチェックする。これまでに行った実験では、安山岩組成のマグマを水に飽和させて急冷ガラス化し、顕微赤外分光分析により含水量を求めることで水の溶解度を得ているが、この顕微赤外分光分析の確度はバンド吸収係数の確からしさに依存する。そこで、バンド吸収係数の確からしさを検定することで溶解度データの確度を見極めたい。これまでの溶解度実験に用いたのと同じ安山岩組成をもつ含水量既知の標準ガラスを合成し、バンド吸収係数の検定を行う。標準ガラスの含水量は絶対分析手法である水素マノメトリーにより独立に決定する。
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