マグマにどのくらいの水が溶け込めるのか(溶解度)についての実験データが玄武岩や流紋岩といった極端な組成のマグマに偏っており、中間的な組成である安山岩マグマの実験データがほとんどないことに問題意識を持ち、そのデータギャップを埋めるべくこの研究を始めた。マグマへの水の溶解度はマグマの浮力や過剰圧といった噴火事象に直接関わる過程を考える上で必須のパラメータである。本邦のようなプレート沈み込み帯の火山弧では安山岩組成のマグマが大量に噴出しており、この研究を行う社会的意義は大きいと考えた。 令和5年度は前年度に引き続き、阿蘇火山玉来川溶岩の組成を持つ安山岩マグマについて実験を行い、この安山岩マグマへの水の溶解度が同じ圧力温度条件でこれまでに得た箱根火山安山岩マグマへの水の溶解度と測定誤差の範囲内で一致すること、同じ圧力温度条件の流紋岩マグマへの水の溶解度に対しては10-20%(相対)程度大きくなることを確認した。プレート沈み込み帯火山弧の安山岩マグマでは水以外で最も含有量変化が大きい成分はカリウムであり、例えば本邦火山弧では火山フロントから背弧側へ向かって5倍程度まで増加する。阿蘇火山玉来川溶岩は箱根火山安山岩のまさに5倍のカリウム含有量を持つので、今回の実験結果はプレート沈み込み帯火山弧の安山岩マグマへの水の溶解現象を代表しているとみなせるだろう。 なお、この研究では、安山岩組成のマグマを水に飽和させて急冷ガラス化し、顕微赤外分光分析により含水量を求めることで水の溶解度を得ているが、分析の確度は溶在水バンド吸収係数の確からしさに依存する。そこで、これまでに得た溶解度をカバーする含水量レンジの標準安山岩ガラス試料を準備して同じバンド吸収係数を用いて分析し、標準の含水量が再現されることを確認した。
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