本研究は活動を終了したマグマ供給系、すなわちマグマ供給系の化石に注目し、その形状を高電気比抵抗体としてイメージングする。マグマ供給系の化石の形状から、通常の手法では推定が簡単ではない活火山のマグマ供給系について洞察を得ることが目的である。対象とするのはバソリスとリング状貫入岩体が地表に露出している大分―宮崎県の県境付近に位置する大崩山である。研究3年度は既存点の再解析も含めこれまでに得られた100点の広帯域MT観測点データを用いた3次元解析を行った。特に初期モデルやパラメータ設定を変えたインバージョンを数多く行い推定される比抵抗構造の特徴が、データから正して拘束されているか確認作業を行った。結果、厚さが5 km以上、3000Ωm前後と高比抵抗な異常体の存在と形状が確認できた。この固結したマグマだまりと考えられる高比抵抗体は地表のリング状貫入岩体の分布よりも広域に広がる扁平形状で、その体積は3000 km3以上と巨大である。大崩山の370 km3の噴出量に対して地下で固結したマグマは10倍程度の体積を占める。第四紀の活動的火山においては上部―中部地殻に低比抵抗体がイメージングされる例が多く報告され、マグマだまりであると解釈される例が多いが、その形状は鉛直もしくは斜め鉛直であり、大崩山のマグマだまりの化石の扁平形状とは異なる。これらの理由を他火山の調査結果や文献調査から総合的に検討し、活動的火山においてしばしばイメージングされる低比抵抗体はマグマだまりではなく、巨大な半固結状マグマだまり周辺に形成される変質した領域であり、動けるマグマはほとんど存在しない領域であることを示唆した。これは活動中のマグマだまりや、その上昇経路は低比抵抗体としてイメージングされるという一般的な考えと異なり、火山の比抵抗構造の解釈に重要な示唆を与えた。
|