研究課題/領域番号 |
20K04138
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
石原 与四郎 福岡大学, 理学部, 助教 (80368985)
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研究分担者 |
成瀬 元 京都大学, 理学研究科, 准教授 (40362438)
小野 林太郎 国立民族学博物館, 人類文明誌研究部, 准教授 (40462204)
片桐 千亜紀 九州大学, 比較社会文化研究院, 共同研究者 (70804730)
吉村 和久 九州大学, アイソトープ統合安全管理センター(伊都地区), 学術共同研究員 (80112291)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 旧石器時代遺跡 / 津波堆積物 / 石垣島 / 南西諸島 / 白保竿根田原洞穴遺跡 / 発掘調査 / 洞窟 |
研究実績の概要 |
本研究では,南西諸島の洞窟遺跡とそこに認められるイベントの解析のため,洞窟の学際的調査を行う.具体的には(1)人類の洞窟の利用痕跡を含む新たな洞窟遺跡の実態を明らかにし,先島諸島における洞窟遺跡の解析の先進的事例とすること,(2)洞窟遺跡の堆積物,イベント堆積物や石筍を解析し,人類と古環境記録の関わりを明らかにすることを目指す. 前年度の調査では,洞窟遺跡(カラダギ洞(仮))の発掘調査および周辺洞窟のイベント堆積物の調査を中心に行った.その結果,カラダギ洞で複数のイベント堆積物と中世まで遡る人類の痕跡を認めた.また,周辺の複数の洞窟でイベント堆積物の存在が確認された.一方,カラダギ洞では津波堆積物が厚く分布している場所があり,その基底に至ってないところが認められること,複数の洞窟で津波堆積物と見られる地層の実態の記載が十分でないことなどが課題となった. 本年度は昨年度に引き続き,(1)石垣島の洞窟に認められるイベント堆積物の調査と記載,(2)カラダギ洞の発掘調査の継続,石筍の解析をさらに深めることとした.(1)では石垣島東海岸沿いの10 kmを超える範囲で,海岸からの距離にして200~800 m,標高が4~40 mに洞口が分布する8つの洞窟で砂礫質の津波堆積物を確認した.これらのいくつかの洞窟におけるイベント堆積物の年代はおおよそ2000年前前後に集中していることが明らかになった.また,いくつかの洞窟では表層部に遺物や化石も認められ,人類による洞窟の利用の可能性がある.(2)の調査では,トレンチの拡張と堆積物の詳細な記載および昨年度採取された石筍の解析を進めた.津波堆積物は巨礫サイズの岩石を運搬するほどのものであり,下部は土石流堆積物に近い層相を示すことが明らかになった.石筍は概ね連続的な成長を示すものであることが明らかになったものの,現時点でイベントは抽出できていない.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年度目では,初年度の課題となっていたカラダギ洞のトレンチ調査の継続と,石筍の解析および周辺洞窟における津波イベント堆積物の調査を行った. カラダギ洞の調査では,トレンチを拡張して厚い津波堆積物の底部まで調査が進み,さらに人類の利用の痕跡の可能性のある泥質堆積物等が確認された.発掘の結果,津波堆積物の層厚は,1 mを超えるほど厚く,得られた炭質物の年代はおおよそ2000年前に集中していることから,当初の推測通り,沖縄先島津波による堆積物である可能性が高まった.この砂礫層は1回のイベント堆積物であることが考えられ,極めて強い流れが流入したことが示唆される.また,このイベントの流入に関するシミュレーションにおいては,洞窟内の津波堆積物の分布や層相と調和的な結果が得られている.発掘トレンチの津波堆積物の下位では動物骨化石の産出等も増えており,洞窟に元々堆積していた動物骨化石が露出してきた可能性があるが,現時点では明確な人類の利用の痕跡は得られておらず,これからの発掘に成果が期待される. 石垣島東海岸沿いにおいてさらに洞窟内の津波堆積物の探査を進めた結果からは,先島津波によるとみられるイベント堆積物(約2000年前)が複数の地点で確認された.このことは,約2000年前に発生した沖縄先島津波が極めて大規模であり,かつ石垣島東海岸の広い領域を襲ったことが示唆される.沖縄先島津波については不明な点も多いが,調査の成果からは,その規模は明和津波を遙かに上回ることが考えられる.なお,現時点では,石筍ではイベントが確認できておらず,何らかの方法で年代を確定し,さらに石筍の分析で過去の津波イベントを抽出する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
津波堆積物の分布および層相調査は概ね順調に進んでいるものの,津波堆積物の層厚が著しく厚かったため,現時点では,旧石器時代の人類の利用の痕跡の抽出および石筍資料の解析が進んでいない.また,津波堆積物に関しては,さらなる年代の追加により複数のイベントを得ることも重要である.また,津波堆積物については徐々に実態が明らかになっている.したがって,今後は以下の方針で作業を進める. 旧石器時代の人類の痕跡に関しては,昨年度で津波堆積物の基底に至ったことから,さらに慎重な発掘調査を進める必要がある.これらは,考古・人類班および研究分担者以外の専門家とも協力して作業を進める.津波堆積物については,その層相,分布,年代が明らかになってきている.さらなる洞窟調査も進めつつも,本年度は年代測定を追加することで,この津波イベント堆積物の年代や規模をより明確なものとし,全体を取りまとめる.石筍の解析においては,引き続き作業を進めるとともに,過去,白保海岸沿いで得られた石筍の解析も検討した上,上述のような人類による洞窟の利用および津波イベントの抽出を試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度では前年度に引き続きCOVID-19の影響が残っており,離島における調査の実施は関して限られた期間で集中的に行った.そのため,旅費を中心とした支出が予定より少なくなっている.また,これらを考慮して実施した調査は,諸般の状況を鑑みて3月末を中心に行われた.そのため,調査の結果得られた試料の分析のうち,特に放射性炭素年代測定の委託に関し,実施時期を延期したため,次年度繰越額が生じた. 次年度は津波堆積物の年代についてさらに充実した情報を得るため,調査を引き続き行うとともに,前年度採取した試料および,調査によって得られた試料に関して多くの年代を得る予定である.
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