研究課題
研究成果は3つに分けることができる。(1)伊豆・小笠原海溝の”高速”非地震性滑りイベントの発見と論文発表: 伊豆・小笠原海溝のプレート境界に沿って1日よりははるかに短く1分よりははるかに長い時定数の滑りイベント(マグニチュード6.5相当)を海底圧力計アレーを2件発見した。従来、断層滑りは、高速の通常地震と超低速のいわゆるスロー地震の2種類に分けられ、両者の時定数の間には大きなギャップがあるとされてきたが、本発見はこうしたギャップの存在を否定するものである。成果は2篇の論文としてJGR及びGRLに発表された。(2)伊豆・小笠原海溝の”高速”非地震性滑りイベントの移動性・群発性検出: 上記のイベント2件は3.5日の間隔を置いて発生したが、これらイベントの数日前と数日後に更に大きな”高速”非地震性滑りイベントが起きていることを見出した。今回、研究対象としたのは上記2件の非地震性滑り(+M6.0地震)とその前後に発生した非地震性滑り2件の計5件であるが、滑りが海溝側から順に陸側に向かって移動したことがわかる。全ての滑りを足し合わせるとマグニチュードは7.1となり、これは伊豆・小笠原海溝で知られている如何なる地震よりも大きく、ここではこの滑りモードが卓越しているのかもしれない。(3)日本海溝・南海トラフ向けの”高速”非地震性滑りイベント検出システムの構築: 科研費の一部でワークステーション(ヒューレットパッカードHPC3000)を購入し、日本海溝沿いの海底ネットワーク(S-Net)や南海トラフの海底ネットワーク(Do-Net)のデータを用いて”高速”非地震性滑りイベントを検出するための準備を進めている。当面、上記(1)(2)と同様な解析ができる観測点を選んで、解析システムの構築を目指す。
2: おおむね順調に進展している
わずか1年間の海底水圧観測から、申請者が直接関与するものだけで既に6篇の論文が公表され、そのうち2篇は本科研費によるものである。またその内容は従来の断層滑りに関する常識と相反するものであることから大きな反響を呼んでいる。また論文発表後にも新たな”高速”非地震性滑りイベントが複数見つかり、しかもそれらがきわめてインパクトのあるものであることから、研究は今後とも更に発展する可能性が高い。こうしたことから、実績概要(1)(2)だけならば、自己評価は「当初の計画以上に進展している」ことになろう。一方、実績概要(3)については、ようやくシステムが動き出した所で「やや遅れている」と自己評価せざるをえない。以上、2つの自己評価を勘案して最終評価を「おおむね順調に進展している」とした。
伊豆・小笠原海溝に関しては、これまで行ってきた解析を他期間にも広げて、同様なイベントを時間軸を観測期間全体(1年間)に広げて探索することでよいと考える。日本海溝及び南海トラフに関しては必ずしも、これまでの方針で順調に行くとは限らない。システムの構築自体にそれほど大きな問題はないと思われるが、データの品質やレファレンスとすべき海洋物理的水圧予測値とのズレについては、簡単に解決できないかもしれない問題がいくつかありうる。日本海溝及び南海トラフの海底観測ネットワークの水圧計の品質に詳しい地震・津波研究者や海洋物理的水圧予測に詳しい海洋物理研究者と共同研究を進めつつあるので、これらの点に関しても進展が期待できる。
当該年度中に発注してあったワークステーション付属品の一部(ディスプレーなど)であるが、世界的に納品が遅れており、これもその一環である。次年度初頭に納品される見通しである。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件)
Earth, Planets and Space
巻: 73 ページ: 1-17
10.1186/s40623-021-01414-3
Journal of Geophysical Research: Solid Earth
巻: 126 ページ: -
10.1029/2021JB022132
Geophysical Research Letters
巻: 48 ページ: -
10.1029/2019GL095915