研究課題
本研究で対象とする,最も重要なタクサの一つである,フィリピン・カラモアン半島産ヒップリテス科厚歯二枚貝(本科最古の記録の可能性がある新属新種)について,形態の詳細な解析を進めた結果,次のような新知見が得られた.左殻は,両殻の合わせ目において,右殻に存在する「外層の折りたたみ構造」に沿った「落とし蓋」のような形状を持つこと,本科には珍しく,上方にやや膨らんだ外形を持つこと,さらに本科を特徴づけるcanal and pores systemを持たないことが判明した.これらの特徴は,後期白亜紀後半に主にカリブ海地域に栄えたTorreites属と共通しており,Torreites属は,従来想定されていた,特殊化したヒップリテス科ではなく,むしろ原始的な特徴を残した,当時の「生きている化石」であった可能性が想起される.また,本タクサを特徴づける,右殻の「外層の折りたたみ構造」の,個体成長を通じた変化を検討した結果,幼生段階では「折りたたみ構造」を持たず,成長を通じて,1本ずつ追加されていき,最終的に7本もしくは8本の「折りたたみ構造」を持つこと,「折りたたみ構造」の形成場所や形成順には一定のルールがあることがわかった.このことは,「外層の折りたたみ構造」の形成がメカニカルな要因で制御されていることを示唆しており,また, 個体発生を通じて,折りたたみ構造を持たないポリコニテス科Horiopleuraの段階からヒップリテス科のHippuritella/Hippurites段階,Vaccinites段階を経て,本タクサへという,系統発生を「繰り返す」という見方もできる.以上より,カラモアン産ヒップリテス科の認識により,本科の初期進化史を完全に書き換える必要性を指摘できる.今後は,本タクサとポリコニテス科の派生的な種との形態の比較から,ヒップリテス科の標徴の獲得過程についても議論したい.
4: 遅れている
新型コロナウイルスの感染拡大のために,令和3年度も,国外における収蔵標本調査や野外調査・標本採集を実施することができず,予備調査時に採集した標本の観察や分析作業,国内での調査のみを実施した。
令和4年度に,可能であれば,令和2-3年度にできなかった,国内外における収蔵標本調査や野外調査・標本採集などを計画に組み込んで実施し,遅れを取り戻したいと考えている。ただし,新型コロナウイルスの感染拡大や国内外でのワクチン接種の状況次第ではすぐには調査が実施できないことも予想され,その場合,調査先,あるいは調査期間の変更などの対応も検討する。
新型コロナウイルスの感染拡大のために,令和3年度も,国外における収蔵標本調査や野外調査・標本採集を実施することができなかったため。令和4年度に,令和2ー3年度にできなかった,国内外における収蔵標本調査や野外調査・標本採集などを計画に組み込んで実施したいと考えている。
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Island Arc
巻: 30 ページ: e12400
10.1111/iar.12400