• 研究課題をさがす
  • 研究者をさがす
  • KAKENの使い方
  1. 課題ページに戻る

2021 年度 実施状況報告書

節足動物の超多様性の謎の解明:貝形虫を用いた進化精子学の創立に向けて

研究課題

研究課題/領域番号 20K04146
研究機関金沢大学

研究代表者

神谷 隆宏  金沢大学, 地球社会基盤学系, 教授 (80194976)

研究分担者 小沢 広和  日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20632045)
Smith Robin  滋賀県立琵琶湖博物館, 研究部, 専門学芸員 (70416204)
蛭田 眞平  独立行政法人国立科学博物館, 分子生物多様性研究資料センター, 特定非常勤研究員 (80624642)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード生殖的隔離 / 貝形虫 / 種分化 / 精子形態 / Cythere上科
研究実績の概要

これまでにCythere上科、Cypris上科およびBairdia上科貝形虫の精子形態を精査し、さらに当該分類群の形態解析と遺伝的解析に基づく系統推定を行い、「貝形虫の多様化が顕著な分類群では、精子が生殖的隔離機構の重要な役割を担っている」という仮説がより強固なものとなってきた。
Cythere上科Xestoleberis属の精査を進めた。Xestoleberis属の1亜属といえるX. setouchiensisグループは、本課題研究で現在の日本周辺に5種分布することがわかった。そのうちの3種は本課題研究の調査で確認された未記載種である。またこれらの5種は互いに極近縁または直接的な祖先・子孫関係にあると考えられるほど形態が類似し、地理的分布の特徴もそれを支持する。背甲及び軟体部形態の分岐分類学的解析に基づくと、精子形態変化の方向性に興味深い傾向が現れた。精子の長さは、一旦減少してから増加するという変化を示すのである。このサイズが大きく変化(ジャンプ)する種の組み合わせは、同所的に生息する種間に見られる特徴である。
このような精子長が容易く変異する性質は、Cythere上科L. uranouchiensisグループの3種(これらも直接的祖先・子孫関係にある)にも認められた。この3種の精子形態を調べた結果、基本的な形態は類似した。しかし一方で、異所的に分布するLarge-type種(黒潮系種)とProto-type種(対馬暖流系種)はほぼ同じ長さの精子を持つが(後述するようにそれでも有意の差を持つ)、Large-type種と同所的に産するPedomorphic-type種はLarge-type種の精子よりはるかに短いのである。約70%にまで精子長は短小化しているのである。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

Loxoconcha uranouchiensisグループ3種のCO1遺伝子の解析を進め、3種の遺伝学的関係が解明された。Pedomorphic-type種は他の2種と比べ遺伝的距離が離れており、別種と判断される。またLarge-type種(黒潮系種)とProto-type種(対馬暖流系種)は遺伝的に類似するが、生殖的隔離が成立しているとみなして良いだけの塩基対の差が確認された。これらの結果、同所的に産する近縁種の組み合わせ(Pedomorphic-type種とProto-type種、Pedomorphic-type種とLarge-type種)においては、精子長が全く重ならないほど十分に長さが異なること、異所的に産する極近縁種の組み合わせ(Proto-type種とLarge-type種)においても精子長は重なるものの、有意な差が認められることがわかった。当該年度の研究成果は、種分化直後と思われる極近縁な種の間でも「精子長が容易に変異しうる」という事実を提示することに成功した。背甲や軟体部にみられる形態の差が、極近縁種間では交尾器を除いて見られない中で、精子長がこれだけ変異するという事実は、精子長が何らかの機能を持ち、そのために大きくジャンプした変異が残されていることを示唆している。

今後の研究の推進方策

Cythere上科貝形虫の精子形態の変異しやすさをより明確化するために、Bairdia上科のみならずPontocypris上科、Cypris上科のPodocopida目、Platycopida目、Miodocopida目貝形虫の近縁種間での精子形態を精査し、比較したい。これにより圧倒的な種多様性を誇るCythere上科貝形虫の精子特性の理解を進めることができる。これらの生物材料の系統をDNA解析から見積り、形態から見積もられる系統と比較する。さらには、精子形態の違いが受精の妨げになるかどうかの飼育実験を試みる。

次年度使用額が生じた理由

交付決定時の内訳と、前年度までの支出額の間で最も乖離の多いかったものは、196万円の支出を見込んでいた旅費の使途である。国内の調査(西表島、紀伊半島、北海道など約130万円)、国際学会参加(フランス・リヨン 約60万円)を見込んでの申請であったが、これまでの3年間はコロナ禍のために野外調査や海外出張の自粛を求められ、多くの活動できなかった。これらの一部は次年度にコロナ状況を踏まえながら国内調査(西表島など)を実施する予定である。また、調査の進展の遅れの代替として、既存の標本の整理・解析により研究を補填したが、これに一部の物品費やその他の経費を要した。物品費の余剰分や謝金は調査を進めるに伴い、使用する計画である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2022 2021

すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 図書 (1件)

  • [雑誌論文] The ontogeny of two species of the family Notodromadidae (Cypridoidea, Ostracoda, Crustacea); taxonomic and palaeogeographic significance2022

    • 著者名/発表者名
      Robin J. Smith, Patrick De Deckker, Takahiro Kamiya
    • 雑誌名

      zootaxa

      巻: 5094 ページ: 351-395

    • DOI

      10.11646/zootaxa.5094.3.1

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [図書] 恋する化石2021

    • 著者名/発表者名
      土屋健 (神谷隆宏他監修)
    • 総ページ数
      237pp
    • 出版者
      ブックマン社
    • ISBN
      978-4-89308-946-5

URL: 

公開日: 2022-12-28  

サービス概要 検索マニュアル よくある質問 お知らせ 利用規程 科研費による研究の帰属

Powered by NII kakenhi