研究課題/領域番号 |
20K04147
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研究機関 | 静岡大学 |
研究代表者 |
延原 尊美 静岡大学, 教育学部, 教授 (30262843)
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研究分担者 |
徳田 悠希 公立鳥取環境大学, 環境学部, 准教授 (30779765)
池原 研 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 地質調査総合センター, 招聘研究員 (40356423)
椎野 勇太 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (60635134)
石村 豊穂 京都大学, 人間・環境学研究科, 教授 (80422012)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 第四紀 / 深海 / 底生動物 / 水塊構造 |
研究実績の概要 |
氷期における深海性シラスナガイ類二枚貝殻(約2万年前の遠州灘および約4万年前の伊豆弧北部)の貝殻成長方向にそった炭素・酸素安定同位体比の時系列変化をもとに,氷期における深海の水塊変動について考察した.黒潮域の現生オオシラスナガイ(駿河湾)の殻を用いた安定同位体比の分析結果や日本海洋データセンターJ-DOSS公開の深海水温データ等と比較した結果,最終氷期の2万年前の遠州灘では現在の鹿島灘沖に匹敵する低水温塊が水深300m以浅にまで影響を及ぼしていたこと,また氷期の遺骸殻の炭素同位体比は黒潮水塊に現生するものよりも大きな値を取り,海洋の一次生産量の大きな海域由来の水塊の影響が大きくなったことが示された.大量の冷水サンゴや北方由来の貝類遺骸との共産も考慮すると,氷期における黒潮域の陸棚斜面では,鹿島灘や本州東北沖を供給源とする中層水の影響深度がより浅い水深まで広がった可能性が示唆された. また前年度までの成果として,伊豆諸島周辺の深海粗粒底質に生息するシラスナガイ類二枚貝には固有な新種が複数種分布する可能性を指摘したが,その一部について国内学会で成果発表を行い,電子顕微鏡観察による原殻形質や殻外表面の微細彫刻の確認を行った.さらに,東海沖における複雑な海底地形に関連した腕足動物遺骸殻の分布パターンについてもとりまとめ,外側陸棚以深から深海域における腕足動物の分布には砂以上の粗粒堆積物底の存在が重要であることを国際学会で報告した. このような深海の粗粒堆積物底は,海脚やバンク,海洋火山島など地形的高所に分布することから,上記の同位体分析の結果とあわせると,氷期―間氷期の水塊変動の中で個体群の隔離や種分化の場として注目される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き,氷期堆積物中の試料の分類・同定や伊豆固有要素としての新種認定のための調査を継続していたが,関東地域に分布する更新統上総層群産の化石試料や現生太平洋側東北沖の陸棚域のシラスナガイ類について,氷期堆積物中の試料と殻形態上,類似する標本が発見された.東北沖のシラスナガイ類の一部については分子系統解析から新種の可能性も指摘されていることから,論文公表については,これらの標本との比較検討を継続する必要がでてきた.このため,関東地域の化石試料や東北沖の現生標本についても網羅的に調査を継続しており,年代測定用試料の選別も保留することとなったため.
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今後の研究の推進方策 |
現在検討中の新種候補分類群については,国立科学博物館収蔵の太平洋岸東北沖の生貝試料や房総半島第四系の貝化石試料との比較を行い,記載論文を作成する。また,すでに測定した氷期のシラスナガイ類遺骸殻の炭素・酸素安定同位体比の成長に伴うプロファイル分析の結果については,補足試料の分析の必要性を検討する.たとえ予察的な結果であっても,これまでの研究事例との比較も行いながら,氷期における黒潮流域の深海水塊の挙動に関する基礎データとして成果を公表する. それらの作業と並行し,東海沖における冷水サンゴや北方系貝類を多く伴う遺骸群集の代表的産地については,遺骸殻の放射性炭素同位体年代の決定を行い,氷期堆積物の分布概要を明らかにし,水塊構造の変動によって孤立化しやすい地形的高所とその場所における固有種の分布を確認し,暖流域の深海における種分化のモデルを提示する.
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次年度使用額が生じた理由 |
房総半島の第四系の化石試料の標本調査に予想以上に時間がかかり,東海沖の新種の可能性のある分類群の遺骸殻について,外部業者に委託する放射性炭素同位体年代の測定業務を再度次年度に繰り越した。今年度は,それらの試料を含め,氷期の深海堆積物の候補地点の遺骸殻の放射性炭素同位体年代の測定を実施する.また,これまで扱った東海沖の現生遺骸殻等の標本を一度再整理するための謝金や,標本を所蔵博物館や研究機関への返却計画を立てるための研究うちあわせ,および成果発表の旅費に使用する.
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