研究課題
令和5年度には,P. albicans 5個体,P. naganumanus 1個体,Mizuhoecten tokyoensis 1個体について,殻の日成長量変動,および酸素同位体の分析を行った。昨年度までに得られた研究も併せて,西南日本太平洋岸,および関東沿岸のイタヤガイ科の分析事例を検討した結果,以下の結論を得た。季節的な微細殻成長が明らかとなったほとんど全ての種において,高水温期(夏季の終わりから秋季の初め)に殻形成が停滞し,成長障害輪が形成される傾向が認められた。逆に高成長期については,ほとんど全ての個体がよく成長する成長初期を除くと,(1)水温降下期(秋の終わりから冬季),(2)低水温期(冬季から初春),(3)低水温期から水温上昇期(初春から初夏),の3タイプが認められた。現生個体のP. albicansに知られている季節的殻成長は(3)にあたるが,このタイプは化石個体では認められなかった。一方,鮮新世から更新世の化石個体はほとんど全て(1)または(2)のタイプであった。以上のことから,鮮新世以降の長期にわたって,この海域ではイタヤガイ科二枚貝は冬季から初春を中心に殻を成長させたが,後期更新世以降になって主な殻成長の季節が初春から初夏に移行したことが推定される。また,プランクトン・ブルームのプロキシとする説が知られているLi/Ca比を分析した結果,土佐湾産の現生P. albicansについても,この説が支持される結果を得た。したがって,黒潮沿岸域のイタヤガイ科二枚貝に認められた高成長期(季節)の時代的変化は,餌であるプランクトンの発生時期の変化を反映したものと解釈できる。
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