研究課題/領域番号 |
20K04152
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研究機関 | ヤマザキ動物看護大学 |
研究代表者 |
筒井・石川 牧子 (石川牧子) ヤマザキ動物看護大学, 動物看護学部, 教授 (00446577)
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研究分担者 |
鍵 裕之 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 教授 (70233666)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 生体色素 / アンモナイト / 分光分析 / 模様形成 |
研究実績の概要 |
カンブリア紀に視覚を持つ捕食者が出現して以来、体表に色や模様を持つ戦略は、多くの動物の生存に重要な役割を果たしてきた。現生生物学では模様が適応度に及ぼす影響等の研究が盛んだが、実験的な研究で扱えるのは数~数十世代に限られる。一方、化石は動物の模様の進化史を示す直接証拠となる。動物の模様の進化史についての理解は、視覚による選択圧や生物の環境応答を考える上で不可欠である。色彩は化石として保存されにくいが、古生代や中生代の化石にも稀に模様が見られる。こうした現生種との類縁関係が遠い、または祖先的な絶滅種の殻模様を追跡できれば、動物の模様の進化史に不可欠な知見を得ることができる。しかし、化石に見られる模様は化石化過程での二次的な沈着で、生息時の模様とは無関係であるという議論も尽きない。そのため、貝殻色素の分子構造を理解し、その存在を客観的に判別できる分析法の確立は、動物の模様の進化がいかに始まったかの鍵となる情報を得る上で不可欠である。 化石貝殻の色素様残渣の正体と形成メカニズムを明らかにするため、本年度は中生代三畳紀(約 2.5 億年前)のアンモナイトや二枚貝等の標本を用い、ラマン分析による色素様残渣の化学構造の推測を行った。アンモナイト等の化石貝殻に見られる色素様物質の部分からのみ現生種で見られる色素の変性で形成されうる炭質物のスペクトルが検出され、その波形解析から比較的低温での熱変性が示唆された。また、様々な動物の色素の同定及び適応的意義を探索した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大により、海外の博物館における標本検討等ができない点で、計画より遅れている。一方で、色素様物質の部分からのみ検出された炭質物のスペクトルの波形解析から、温度履歴の推定と推定された低温域での貝殻色素の加熱変性過程実験を行い、概ね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究に用いた中生代の化石産地は、貝殻表面に模様が保存されることで有名である。世界各地には、こうした産地がいくつか知られる。模様の保存されない他の多くの産地も含め、各産地の熱履歴などのデータをラマンスペクトル等と統合し、貝殻色素の保存メカニズムの解明を目指す。堆積物中の色素化合物からは、堆積物の熟成度や色素の起源についての情報が得られる。こうした研究を貝殻色素に応用し、有機物熟成と色素の変性の物理化学的相関を捉え、“真の”化石貝殻色素の識別指標の確立を目指す。最後に、貝殻色素の存在が証明された化石を用いた絶滅生物の模様復元を行う。絶滅動物の色素化合物が明らかになれば、模様形成の進化史に極めて重要な情報となる。申請者らは現生二枚貝、頭足類の発現遺伝子解析とラマン分光法による色素化合物の基本構造解析を進めており、これらのデータと統合し、模様形成の起源を考察する。更にスミソニアン博物館など各地博物館に収蔵されている標本の調査により模様の変遷を追跡し、逆影や分断色等、選択圧への応答としての模様の起源を議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症拡大のため、海外の博物館への出張ができず、次年度以降の計画とした。産地の被圧情報がないため、まずは加熱実験を中心に行っていく計画としたこと、外部の研究者よりオーブンの貸与を受けたことによって、当面の低温域オーブン費用等を削減できた。余剰分で色素の変性確認に必要な蛍光顕微鏡の導入を検討している。
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