研究課題/領域番号 |
20K04154
|
研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
矢部 淳 独立行政法人国立科学博物館, 地学研究部, 研究主幹 (20634124)
|
研究分担者 |
齊藤 毅 名城大学, 理工学部, 准教授 (50242813)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 伯耆植物群 / 東アジア温帯林 / 後期中新世 / 前期鮮新世 / ブナ属 |
研究実績の概要 |
令和3年度は鳥取ー岡山県境の伯耆植物群の現地調査と,博物館等に収蔵されている既存標本の検討を行なった. 伯耆植物群は,本邦温帯林の原型とされる後期中新世ー鮮新世の三徳型植物群の模式地であり,年代が異なる4つの植物化石群からなるとされてきた(Tanai, 1961).これらの産地の2つは,本研究で特に注目しているブナ属化石のうち,アケボノイヌブナFagus palaeojaponicaのタイプロカリティでもあるため,同種とともに産出するムカシブナFagus stuxbergiと合わせ,両者の分類学的な位置付けを再検討するため,葉・種子果実・花粉に基づいた総合的な検討を目指した現地調査を鳥取県三朝町三徳,同鳥取市佐治町辰巳峠,岡山県鏡野町上斎原にて10月に実施した.このうち三徳山地区の成(赤木ほか, 1984)において,新たに植物化石層と近接した凝灰岩層から年代測定用資料を採集し,外部委託により信頼性の高いU-Pb年代を得ることができた.この結果,辰巳峠での花粉分析成果と合わせ,伯耆植物群の時代的な解釈を改める必要があることが明らかになった.調査により採集した葉化石については,クリーニングを完了し,ともに産出する種類とあわせた分類学的研究をほぼ完了している.花粉および種子果実化石については,抽出作業を完了し,今後,総合的な研究を進める. 既存標本については,鳥取県立博物館と国立科学博物館の収蔵標本を再検討し,前者については,赤木ほか(1984)で報告された標本と未報告標本を合わせ,分類学的再検討を行なって植物群組成の特徴を明らかにした.国立科学博物館では,初年度に実施を予定していた東海層群や伯耆植物群を含めた全国の三徳型植物群から産出した種子果実を中心に再検討を行い,葉化石とあわせた分類学的な位置付けを吟味している.今後は,得られた標本の詳細な特徴をSEM等を用いて検討する.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究が始まって2年目となる令和3年度は,昨年同様に新型コロナウィルス感染症の影響が危ぶまれたが,当初より予定していた,鳥取県ー岡山県境の伯耆植物群の現地調査を実施し,必要な資料を得ることができた.その結果,年代等においてすでに新たな成果を得ている.しかし,国指定名勝・史跡であった三徳山地区の調査のための許可申請に予想外の時間がかかり,分析作業を進める時間を十分に取ることができなかった. 一方,感染症の影響で前年度に調査の実施を延期した東海層群については,既存標本の再検討にシフトすることで,本年度に一部を進めることができた.
|
今後の研究の推進方策 |
今後は,現地調査・資料分析を進めるとともに,既存化石標本と現生比較標本の検討を開始する. 現地調査については,令和3年度に実施した三徳山地区の追加調査を実施するとともに(6月),北海道北見周辺(社名淵・留辺蘂植物群)での調査を実施する(9月). 採集標本の分析をさらに進め,令和4年秋までに各器官(葉・種子果実・花粉)の検討結果を統合する.また,合わせて,大阪市立自然史博物館収蔵の三木コレクションに含まれる東海層群の標本を検討するとともに,現生比較標本の調査を東京大学および国立科学博物館のハーバリウムで行い,その結果も総合した議論を行って,議論の方向性,追加情報の必要性などを吟味する. 令和5年度が本研究課題の最終年となるため,同年には統計学的な検討を含めた分析ができるように準備を進めたい.
|
次年度使用額が生じた理由 |
今回差額が発生したのは,謝金の支出が年度末近くになり,金額の確定が遅くなったためである.次年度は調査および室内作業を前倒しで行うことで,早めにそれらの金額を確定し,適切に執行したい.
|