研究実績の概要 |
本研究は東アジア温帯林の主要構成要素であるブナ属の中で、本邦固有種であるブナおよびイヌブナに類縁があるとされる2種のブナ属化石種(Fagus stuxbergi, F. palaeojaponica)が優占林を形成した過程とその古気候的背景を明らかにすることを目的に,中新ー鮮新世において緯度の異なる植物化石群集3つを取り上げ,化石産出層の層序と年代,化石群集の組成,ブナ属化石種の系統解明に取り組んだ.系統解明には,研究グループに参画した専門家との協働により,化石種の複数器官(葉・果実・花粉)の特徴を総合的に検討した. まず,中新ー鮮新世植物群の模式層序とされる鳥取県ー岡山県境域において,同時期を代表する三徳植物群を産する三徳層および人形峠層の調査を行い,化石群集の検討を行うとともに,共在する凝灰岩層のU-Pb年代を明らかにした.植物化石については鳥取県立博物館および産総研地質標本館が収蔵する標本の再検討も行った.続いて,北海道北東部の小松沢層および社名淵層でも現地調査を行い,前者のU-Pb年代を明らかにした.小松沢層から産する留辺蘂植物群ではF. palaeojaponicaのみが産することから,同層に含まれるブナ属複数器官から本種の特徴を総合的に解明し,本種がイヌブナではなく中国南部に自生するナガエブナに近いことを始めて明らかにした.一方,愛知県ー岐阜県の東海層群の化石群集については,大阪市立自然史博物館に収蔵された三木コレクションを利用し,F. stuxbergiの系統解明に取り組んだ. 各植物化石群集からCLAMP法による古気候解析を行った結果,後期中新世の気候寒冷化期に両種が出現したのち、鮮新世の温暖期にF. paleojaponicaが多産したことが明らかになり、気候変化に伴う両種の動態の違いがわかった。大陸への分布拡大時期は古地理変化との詳細な検討が課題である。
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