研究課題/領域番号 |
20K04160
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
米倉 大介 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 教授 (70314846)
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研究分担者 |
日下 一也 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(理工学域), 講師 (70274256)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多層膜 / エロージョン / アークイオンプレーティング |
研究実績の概要 |
本年度は,エロージョン特性に及ぼすCrとCrNの膜厚比(7:4,1:1,4:7)の影響について検討を行った.また,CrN単層膜を用いてドロップレットの面積率と残留応力の関係について,その関係の検討を詳細に行った.検討に際しては,基板材料をアルミニウム合金からTi6Al4V合金に変更し,アルミナ粒子及びガラスビーズを用いたエロージョン量の測定,損傷面の観察及び残留応力の測定を行った.以下に得られた主な結果を示す. 1. チタン合金基板の場合,投射圧力0.4MPa,投射角度30°の条件下でCr層が最も厚い7:4材にガラスビーズを投射した場合,500g 投射しても多層膜が大きな損傷を受けることなく維持していた.同条件での裸材よりも損傷が少なく,アルミニウム合金基板に成膜した7:4材ではわずか4gの投射で基板が露出していたことから,チタン合金上に成膜した7:4材はエロージョンを抑制する効果があることが確認できた.一方,多面体のアルミナ粒子の場合,同条件の投射では1g程度の投射で基板が露出し始めることがわかり,多層膜によるエロージョン特性の大幅な向上は認められなかった. 2. 投射圧力0.8MPa,投射角度30°の条件下の場合,7:4 材及び1:1 材では,ガラスビーズを200g 投射しても,膜に大きな損傷は認められなかったが,CrN 層が最も厚い4:7 材では,100g 投射した時点で膜が消失した. 3. 昨年度に引き続き,CrN単層材を用いてドロップレットの面積密度と残留応力の関係を検討した.その際,昨年度はドロップレット面積率を変えるために異なる膜厚の試料を用いていたが,本年度は同一の膜厚となるように成膜し,さらに測定試料数を増加させた上で検討を行った.その結果,やはり膜の表面に観察されるドロップレットの面積率が大きくなるに従い,CrN薄膜の圧縮残留応力が減少することがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の結果より,チタン合金が基板材料の場合,多層膜による耐エロージョン性の向上効果を大幅に得やすくなることがわかった.また,昨年度のアルミニウム合金に成膜した場合と同様,多層材では軟質なCr層が膜全体に占める割合が耐エロージョン性に大きく影響する可能性があることがわかった.その一方で,多面体のアルミナ粒子を投射する場合,基板材料をチタン合金に変えても,投射のごく初期段階において,膜が損傷,はく離し,耐エロージョン性が明確に向上しないことがわかった.これは投射粒子の硬さと共に投射材の形状の効果によるものと考えられる.一方,残留応力については,膜厚を統一しても,膜中のドロップレット量によって圧縮の残留応力が減少することなどを明らかにできた.また,投射速度の測定方法も確立し,投射圧力と投射速度の関係についてもデータを揃えた.したがって研究の目的は,当初の計画通り順調に進展していると考えている.
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今後の研究の推進方策 |
今後の方針としては,令和3年度の知見をもとに基板材料にTi6Al4Vを用いたCr/CrN多層膜による耐エロージョン性向上を目指す.特に延性層であるCr層の役割に注目し,エロージョン損傷過程の詳細な検討のために,代表的な投射量ごとに断面観察観察を実施し,損傷過程及び損傷機構の解明を目指す.また,多層膜の残留応力について詳細に測定・分析を試み,膜中のき裂発生・進展抑制挙動に及ぼす残留応力の影響について検討も行う. 以上の検討を通して,多層膜の潜在能力を効果的に引き出し,高い耐エロージョン性を有する多層膜の基本的な設計指針を構築する.
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次年度使用額が生じた理由 |
Crターゲット(5個,577,500円)とアークイオンプレーティング装置のヒーター用Oリング(4個,13,200円)の納品が遅れ,2月の納品に間に合わなかったため.当該物品は3月4日納品済みで,4月に支払いが完了する予定である.4,622円については,令和4年度に物品費として消耗品の購入に使用する予定である.
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