本年度は,エロージョン特性に及ぼすCrとCrNの膜厚比(9:1,3:1,7:4,1:1,4:7)の影響についてさらに検討を進めた.また,粒子形状の影響についてもあわせて検討を加えた.さらに,膜厚をおおよそ揃えたCrN単層膜を用いて残留応力とドロップレットの面積率,試料高さ及び試料-ターゲット間距離の関係について検討を詳細に行った.以下に得られた主な結果を示す. 1.投射圧力0.8MPa,投射角度30°の条件下でガラスビーズを投射した場合,Cr層比率が最も低い4:7材では100g投射時点で膜が消失したが,4:7材以外は300g投射後も多層膜に大きな損傷は観察されず,Cr層が一定の割合を下回ると,耐エロージョン性が低下することがわかった. 2.投射圧力0.8MPa,投射角度90°の条件下で9:1材および3:1材にガラスビーズを投射した場合,5g投射しても膜には基板に達するような大きな損傷が生じないが,それ以外の膜厚比では,ガラスビーズを1g投射した時点で膜の損傷が基板にまで到達していた.したがって,多層膜中のCr層厚さの割合が大きいほど,多層膜の損傷が少なくなることがわかった. 3.投射粒子の形状の影響を検討した結果,球形アルミナ粒子では,投射圧力0.4MPa,投射角度30°の条件下でも5gの投射で多層膜の半分程度まで損傷が及ぶことがわかった. 4.残留応力の測定の結果,残留応力はターゲットからの距離や設置高さによって変わるが,いずれもドロップレット面積率の増加と共に圧縮残留応力が直線的に減少する傾向が認められた.したがって,膜中の残留応力は,成膜時の設置位置によって変更できることがわかった. 以上の検討を通して,多層膜の効果を効果的に発現させうる基本的な条件を明らかにでき,高い耐エロージョン性を有する多層膜の基本的な設計指針の構築を達成できたものと考えている.
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