長周期積層構造(LPSO)を強化相とするMg二相合金は,キンク帯形成を主因とする材料強化によって飛躍的に力学特性が向上することが知られている.しかしながら,キンク帯形成と強度増加の機構は十分に解明されておらず,従来の転位移動と蓄積に加えて回位形成を考慮した材料モデルの構築に期待が寄せられている.本研究では,転位のみならず回転性の結晶欠陥である回位を考慮した大変形結晶塑性モデルを構築し,高次ひずみこう配の解析に適するメッシュフリー法を用いてMg基LPSO二相合金におけるキンク強化の再現を可能とする数値解析手法を確立することを目的としている. 令和2年度では,微視回転自由度を有するCosseratモデルを有限変形理論の体系で結晶塑性論的に構築し,得られたモデルを用いてメッシュフリー解析およびペナルティ法を介したC0級要素でのFEM解析を実施することで,LPSO単結晶におけるキンク帯形成を確認した.続いて令和3年度では,回位由来の転位密度を考慮する方が,材料強度が高く予想されることを指摘した.加えて,α-Mg相とLPSO相からなる短冊形三結晶に圧縮負荷を与えた場合,底面系の活動のみを想定するとOrtho形キンクが,一方,柱面系と二次錐面系も考慮するとRidge形キンクが発生することを見出した.さらに令和4年度では,圧縮変形によるキンク帯形成後に逆負荷(引張り)を作用させると,底面系が荷重軸にほぼ平行で,かつ初期方位の不均一性が大きくRidge形キンクが発生し易いほど,逆負荷を加えても局所方位差および蓄積転位が多く残存し,引張負荷のみの時より終端強度が増大することを指摘した.また,α-Mg相における圧縮時の動的再結晶を想定し,同相の結晶粒を微細化した結果,平均粒径が小さくなるほど転位密度が上昇し,変形の不均一性も増大するため,逆負荷後の終端強度はさらに高くなることを明らかにした.
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