研究課題/領域番号 |
20K04177
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森下 和功 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (80282581)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子動力学解析 / モンテカルロ計算 / 反応速度論解析 / 機械学習 / 照射脆化 / 原子力材料 / マルチスケールモデリング |
研究実績の概要 |
(1)照射下材料内のカスケード衝突プロセスを大規模分子動力学シミュレーションにより解析し、非平衡欠陥生成量をPKAエネルギーの関数の形で定式化した。また、カスケードから直接発生する欠陥クラスターの生成量についても、PKAエネルギーの関数で定式化した。我々のシミュレーション研究は、ひとつのPKAエネルギーあたり1000個のカスケードを発生させ、非平衡欠陥生成に関する統計的性質の議論を可能にした点に大きな特徴がある。原子力・核融合材料の照射脆化機構の解明・劣化予測研究に重要な知見となる。結果の一部は、核融合材料国際会議(ICFRM)で公表し、Nuclear Materials and Energy 30 (2022)で論文として出版した。 (2)照射下ミクロ構造変化に関する反応速度論解析やモンテカルロ解析を実施し、軽水炉圧力容器鋼の照射脆化種として問題になっているCu析出物、Ni-Mn-Siクラスターの形成挙動についての知見を得た。特筆すべきは、これら脆化種の核生成経路が照射速度によって大きく異なることである。この性質は、材料照射研究において行われる加速照射実験の結果の解釈に大きな影響を与えるものである。 (3)照射によって材料内に生成した格子欠陥(欠陥集合体や析出物)は、転位移動の障害物として働くため、外部応力に対する材料の変形特性やき裂の進展状況に影響を与えることが知られている。そこで、本研究では、き裂進展に関する分子動力学解析を行った。今年度は第1ステップとして、欠陥集合体や析出物のない材料に対し、外部応力に対するき裂進展速度、臨界応力などを解析した。特に、き裂進展に対する材料内応力分布の変化に注目し、応力分布の空間的偏りとき裂進展の関係性について議論した。本テーマは次年度も引き続き検討していく。 (4)照射下材料の転位組織を機械学習によって識別するための検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画の狙いは、照射材料内の諸現象(欠陥生成、析出挙動、転位との相互作用、変形挙動、脆化)のマルチスケール解析を行い、照射脆化現象の予測の高精度化を図ることである。予測の高精度化においては、取り扱う現象の統計的性質に注目することが特に重要であると考えており、その点が、従来からの先行研究とは大きく異なる点で、我々の研究の大きな特徴になっている。欠陥生成挙動の解析や材料変形挙動の解析においては、解析において得られる諸パラメータの分布を取得することが重要であるが、我々の努力により、こうした研究データは着実に積み重なってきている。その意味で、研究は概ね順調に進展していると評価してよい。先行研究はほぼ平均的な挙動しか追跡しておらず、一方で材料の破壊現象そのものは、いわゆる最弱リンクモデルの前提において議論されるように、平均の議論ではないので、こうした理論構築における論理展開の齟齬を解消することが、高精度化に寄与するものと考えている。 材料挙動の統計的性質を調べるには、先行研究に比べ、解析のサンプル数を大幅に増やす必要がある。本研究計画では、統計数を増やすためのスパコンの利用(非平衡欠陥生成量評価やき裂進展解析のための分子動力学解析)、必要最低の統計数を減らすための数値解析アルゴリズムの改良(核生成挙動解析のモンテカルロ計算)、疑似的データ生成(転位組織評価の機械学習)などの点で工夫を凝らしている。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は、本研究計画の最終年度にあたり、まとめ・総括を行う。ミクロからマクロに至る各視点での材料挙動の統計的評価は、材料破壊確率の定量化につながるものであり、やがては原子力システムの機能喪失リスクの定量化につながるものである。原子力分野のシステム学におけるリスク定量化は、いまやシステム安全の一翼を担う概念であることから、本研究の材料評価も原子力システムの安全評価に直結する。こうしたミクロ・マクロ、安全等の視点から、本研究をまとめていきたい。
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