本年度も外部での評価・分析が十分に実施できないと判断し、複合成膜装置の組成制御特性を明らかにすることを目的とした①イオン照射エネルギーを定量的に測定する機構の検討、および②スパッタリング/PBII&D複合成膜装置を用いて作製した種々のSi濃度のSi添加DLC膜のXPS分析をおこなった。なお、今回のXPS分析は作製した試料の中から6試料のみを厳選して実施した。 ①イオンエネルギー定量測定にはエネルギーフィルターを組み込んだファラデーカップを作製し、イオン電流と照射イオンのエネルギー分布測定がおおよそ可能であることを明らかにできた。これによって基板材料に依存することなく高精度組成制御が可能となると同時に膜中の結晶性を調整できるプロセスの確立が期待できる。しかしながら現時点では成膜時に照射イオンエネルギーのその場測定ができるまでには至っていない。 ②製作した複合成膜装置(イオン照射機構は未設置)を用いて3種類のSi添加率に調整したDLC膜を作製し、その後1000℃の大気環境雰囲気で熱処理した時の化学結合状態をXPSで、膜断面をTEMおよびEDSで分析した。その結果、熱処理後の膜中にはSiO2微粒子が形成されており、高濃度にSi添加したDLC膜では膜表面に新たな層(新規層)が形成されていることが分かった。新規層の組成分析結果から、添加したSiは高温環境においてDLC膜からのCの離脱を防止するバリア膜の役割があると思われる。一方で、低摩擦係数を確認できなかったSi添加率(本研究では約11at.%以外)において、新規層のC/Si組成比は極端に低いあるいは極端に高くなっていた。これらの結果から、SiO2微結晶を含んだ新規層に適量(C/Si=0.5程度)のC元素が存在することによって低摩擦が発現する可能性があることを明らかにした。
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