本研究では、電極と加工物との間に高速に相対運動を与え、アーク柱を滑らせながら加工することにより、電極材料を被加工物側に移行させる表面改質法を提案している。これまでは、薄肉のパイプ電極を高速に回転させながら、長いパルス幅の放電の発生させ、表面改質を実施してきており、電極成分を加工物に付着させる表面改質は成功している。ただし、加工物がわずかに除去されることやパイプ形状であるため材質が限られるといった問題があった。そこで、同様の効果を細線による相対運動を付与することにより実現を試みた。具体的には、細線に円運動を与え、これを走査することによって実施した。この結果、パルス幅の長い条件においては、相対運動速度がかなり小さい条件においても、加工物はほとんど除去されることなく、電極成分が加工物に移行する現象が確認された。このことは装置構成において非常に有利であり、アークが滑るような特別な条件下でなくても改質加工が可能であること示しており、汎用性の高い技術になる可能性を見出した。 これらの成果に基づき、特定の面積に対して改質を行うために、細線電極を相対移動させながら、加工物を移動させる走査加工を実施した。細線には、高硬度、高融点の材料であるタングステンを用いた。この結果、母材はほとんど除去されず、走査面全体に放電改質面の形成が認めれた。ただし、形成された改質面は所望する硬度には達していない部分もあり、均一性については今後さらなる検討が必要となっている。
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