研究課題/領域番号 |
20K04201
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
瀬戸 雅宏 金沢工業大学, 工学部, 准教授 (90367459)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 射出成形 / 繊維強化樹脂 / 配向制御 / 機械的特性 |
研究実績の概要 |
本研究では,主に①繊維配向制御因子の解明,②繊維配向メカニズムと制御手法の確立,③任意の力学的特性の実現の課題について取り組んでいる.初年度では,繊維配向の制御因子として金型内の樹脂流動挙動に着目して可視化実験により,強化繊維の配向に与える影響を検討した.その結果,射出成形品の板厚方向に生じる繊維配向度分布は,射出成形中の固化層成長が大きく寄与し,特に固液境界層での高いせん断応力によって繊維が強く配向することが示唆された.また,ゲート形状が繊維配向に与える影響も検討した.その結果,ゲート形状の変更によって,成形品板厚中央層の配向が変化することがわかった.その一方で,繊維の含有率および繊維長によって配向が変化することもわかってきた. その背景のもと,今期は,繊維配向度に与える樹脂流動挙動の影響について.定量的な検討を進めた.具体的には,射出成形中の樹脂流速分布をPIV法により定量化し,樹脂流速分布によって生じるせん断応力,せん断ひずみエネルギーを算出した.成形品板厚方向のせん断ひずみエネルギーと繊維配向度を比較すると,繊維含有率が高い(30wt%)場合は,せん断ひずみエネルギーが高い層で繊維は流動方向に強く配向し,せん断ひずみエネルギーの分布と繊維配向度の分布は一致する傾向が見られた.しかし,繊維が低含有率(0.5wt%)の場合,せん断ひずみエネルギーの分布のMD配向度の分布は高含有率条件と比較して一致しなかった.このことから,繊維配向は樹脂流動のみでなく,成形中の繊維同士のぶつかり合い(干渉)の影響を受けることが示された.これらの結果から,射出成形品の繊維配向度予測には射出成形中のせん断応力によって生じるせん断ひずみエネルギーに加えて繊維含有率による干渉の寄与度を考慮する必要があることがわかった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の2021年度研究計画では,射出成形品の繊維配向度を高精度で予測する手法を確立する予定であった.これまでの本研究課題の成果から,繊維同士のぶつかり合いの影響(干渉の影響)をのぞいて,成形品板厚方向の樹脂流速分布によって生じるせん断応力,せん断ひずみエネルギーの影響を強く受けることを明らかにした.また,このせん断ひずみエネルギーは成形中の固液境界層が最も高くなることが示された.このことから,射出成形品の繊維配向度を高精度で予測するためには,成形系中に変化する固液境界層の位置(固化層の厚さ)を推定することが重要であることがわかってきた.そのため,今年度は金型からの冷却によって成長する固化層厚さを予測するため,金型と樹脂界面における接触熱抵抗を定量的に予測し,金型からの冷却モデル,固化層成長モデルを検討する計画であった.しかしながら,今年度は2020年度の研究成果から新たに課題となった繊維含有量の影響やゲート形状が射出成形品の繊維配向に強く影響し,配向制御する支配因子の一つであることから,これらの影響を深く検討する必要が生じた.また,新型コロナウィルス感染拡大防止の取り組みから,年度当初の4月から6月の間,研究室への学生の登校を自粛する対策が行われた.これらのことから,研究計画を見直し,前述の射出成形品の繊維配向度分布に影響を与える因子を重点的に実施した.そのため,成形中の樹脂と金型との接触熱抵抗の定量化および固化層成長モデルの検討見送った. 成形中の樹脂―金型界面の接触熱抵抗の測定については研究計画を見直し,金型に設置した温度センサにより測定された成形中の樹脂表面温度測定結果をもとに非定常伝熱解析により,樹脂―金型界面の接触熱抵抗を同定し,固化層成長モデルの検討を進める計画である.
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今後の研究の推進方策 |
前述したように,2020年度の研究成果についてさらに重点的に検討する課題が新たに出てきたこと,新型コロナウィルスの感染拡大防止の観点から,学生の研究室出席が見送られたため,樹脂および金型界面における接触熱抵抗の実験的評価を実施することができなかった.そのため,この研究課題については,実施の方法を変更して行う計画である.当研究室で所有している射出成形金型には,キャビティ表面の温度センサーを2か所設置することができ,測定位置に樹脂が到達した以降の温度変化を経時的に測定することができる.この時の温度測定結果を非定常伝熱解析により推定することで,境界条件である金型樹脂海面の接触熱抵抗を定量化する予定である. また,当初の計画で示した,射出成形品の力学特性を目的関数とした,繊維配向制御手法,成形プロセス条件の設定指針を構築することを目指す.まず,射出成形過程における樹脂流動挙動と繊維配向度分布の関係を定量的に比較し,プロセス条件と繊維配向の相関式を確立する.また,成形品の繊維配向状態(繊維配向テンソル)と力学的特性との関係を明らかにし,均質化法により成形品の力学特性(弾性率,強度)を求める手法を検討する.さらに,均質化法により計算された成形品の力学的特性をCAEの材料条件として反映させて構造解析を実施し,実際の成形品の機械的特性を評価する. これらの検討の後.射出成形CAEの繊維配向解析,均質化法による樹脂物性予測,構造解析による強度,剛性解析を連成させた解析手法を構築し,本解析手法の検証を実施する.また,リブ付き平板など,局所的な配向を期待できる単純なモデルを用いて一連の解析を実施し,配向計算を考慮した場合としない場合の比較によって,製品重量がどの程度削減可能か考察し.解析手法の有効性を明らかにする.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画段階では,射出成形過程における固化層成長モデルの構築,繊維配向の予測精度向上を目的として,金型内を流れる樹脂表面と金型キャビティ表面における接触熱伝達を実験的かつ定量的に計測する計画であった.しかし,2020年度の研究成果により,射出成形品の繊維配向は繊維含有率やゲート形状に大きく影響を受けることがわかったことから,計画を一部変更してこれらの影響を重点的に検討した.また新型コロナウィルスの影響により学生の研究室出席を2か月程度遅らせたことから研究計画を見直した.このことから接触熱伝達の計測のための金型改造費用および放射温度計購入費用の執行を見送ったために601,761円の差異が生じた. しかしながら,射出成形品の繊維配向が固化層成長,樹脂流動によって生じるせん断ひずみエネルギーによって大きく変化することから樹脂と金型間の熱の移動を推定し,金型冷却による樹脂の温度変化を予測することが重要である.そのため,2022年度は金型キャビティ表面温度センサーを金型に設置して成形中のキャビティ表面温度を経時的に測定し,金型界面の接触熱伝達係数を数値解析的に同定する計画である.この実験を実施するため,金型表面温度センサー並びに若干の金型改修費に繰越金を使用する予定である.
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