金属材料の切削加工における凝着物生成および切りくず生成過程を明らかにすることを目的とし,切削時に生じる凝着物や構成刃先の3次元形状と切りくず幅方向の材料流出を含めた切削工具切れ刃稜線周辺部の材料変形及び流出挙動を把握するため,断続旋削加工時に生成された切りくずの末端部の断面観察と硬さ測定を実施した. 切削終了端に切削力を支えるための真鍮板を設置する切りくず採取方法を適用し,切削端部の断面組織の観察と硬さ測定を実施した.対象被削材は,これまでに多くの報告がある中炭素鋼(S45C)とした. 切りくず幅方向に順次流出方向断面観察を行った結果,切削仕上げ面生成に関与する部分では,切削速度が低速の場合,切りくず(試料)によるばらつきや観察部位によるばらつきが大きく,生成された構成刃先の厚さや形状が切削中に複雑に変化していた.このことは,従来報告されてきた構成刃先の不安定性を示しており,本課題で行った切りくず採取方法が有効であったことを示している.また,切りくずが構成刃先上を滑りながら2次塑性域が生成されることがわかった. 一次塑性域のみを通過したと思われる切りくず内部と二次塑性域との微小硬さを測定した結果,前者の硬さは母材未加工部の硬さの概ね2倍,後者は一次塑性域の概ね2倍程度に硬化しており,切削速度が変化しても一次塑性域の硬さはは変化しないが,二次塑性域は切削速度の上昇に伴い徐々に硬さが低下していた.このことから一次塑性域を通過した被削材は切れ刃として作用できる十分な硬さを有しており,高切削速度下においても構成刃先は消失するわけではなく,過切削現象は常に起こっていることが新しい知見として示唆された. 更に切りくず幅方向の組織を観察したところ,切りくず生成初期には幅方向への流れが顕著であり,変形の程度が大きくばらつき,複雑な変形挙動を示しながら切りくずが流出していることが判明した.
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