研究課題/領域番号 |
20K04213
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研究機関 | 工学院大学 |
研究代表者 |
武澤 英樹 工学院大学, 先進工学部, 教授 (40334148)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 細穴放電加工 / パイプ電極 / 電極形状 / 加工液噴出圧 / 加工不安定 / 加工粉排出 |
研究実績の概要 |
本研究は,市販の細穴放電加工機を用いた深い細穴加工において経験的に知れている放電不安定に起因する加工速度の低下および加工の停滞現象の解消に向けたパイプ電極外周部への溝加工を含めた断面形状制御の効果を明らかとすることを目的としている. そこで研究2年目の年度は,初年度特注した電極断面形状が異なる直径1mmのパイプ電極3種(single cut,double cut,Triple cut)電極を用いた実加工を繰り返し,深穴加工時の放電特性を比較した.このとき,成形性および真直性等を保つため,電極内部断面(加工液が噴出する断面)の大きさが通常パイプ電極より大きく成形されていたため,加工液噴出用のポンプ圧も各種変化させ,その影響を確かめた.被加工材は高さ125mmのステンレス鋼である. その結果,通常パイプ電極で推奨されているポンプ圧5MPaでは,Triple cut電極が最も安定的に加工が進行し,加工時間も短かった.一方,Single cut電極は安定的に加工は進行するものの,3種の特注電極のなかでは加工速度が遅かった.通常パイプ電極は,加工終盤に加工が不安定になり電極の引き上げ動作が頻出して加工速度は最も遅い.それに対して,ポンプ圧を3MPa,1MPaと下げて加工を行うと,Triple cut電極が最も安定的に加工が進行することに変わりはないが,通常パイプ電極での加工不安定性が解消され,安定的に加工が終了した.ただし,トータルの加工時間はTriple cut電極には及ばない.single cut電極,double cut電極もポンプ圧を低くした方が安定的に加工が進行することとなった.これより,パイプ電極断面形状の違いによる加工粉排出状況の違いに加えて,パイプ電極から噴出する加工液のポンプ圧によっても,加工状態が大きく変化することが明らかとなり,加工安定生への新たな知見が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細穴放電加工において,加工深さが深くなると放電状態が不安定となり加工速度が低下する現象を解明し,加工速度の低下を回避する手法の確立を目指して研究をスタートしている.これまで,放電状態が不安定になる主要因として加工粉の滞留が原因と予想し,加工粉の排出能力を高めるために,電極外周部に溝を追加することで,放電状態の不安定性回避の可能性が確かめられている.その次に,電極断面形状を通常の丸パイプ電極から,片側カット(single cut),両側カット(double cut),3方向カット(Triple cut)の断面形状に変更した電極を特注し,その効果を確かめると,加工粉を排出する外周部隙間がもっとも大きいTriple cut電極で最大の効果があることがわかった.これより,加工粉の排出能力を高めることが,放電不安定性回避に効果があることがわかる.一方,断面形状を変化させた電極中央部の空洞部の大きさが通常パイプ電極よりも大きく成形されたことから,加工液噴出量を統一するために噴出ポンプ圧を調整した加工も行われた.これまでは,使用ポンプの最大圧力5MPaで加工してきたが,3MPa,1MPaとポンプ圧を小さくした比較を行った.一般的にはポンプ圧を下げると加工液流量が減少し,加工粉排出能力が低下するため,放電不安定性の解消には効果がないと考えられたが,実際の加工においては,逆の結果となった.つまり,5MPaの通常パイプ電極で放電状態が不安定になるのに対して,1MPaでは放電常に安定した加工が進行することがわかった.これは新たな発見であり,深穴加工時の加工速度向上あるいは放電不安定性の解消のための設定条件の一つとなり得るヒントが得られた.よって,本研究の進捗状況は概ね順調に進行しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
次年度は研究の最終年度になるため,研究のまとめも視野にいれつつ,新たな知見として得られた加工液噴出ポンプ圧が,深穴加工時の放電状態にどのように影響しているのか詳細を調べることから進める.放電波形の観察および加工液噴出量の記録を進め,主軸降下量と合わせた3種のデータから,各深さにおける放電状態の推定を行う.加工液噴出圧が低くなるとどのような放電状態が連続して発生するのか,その際,加工粉の状態はどのように影響しているのかを検討する. また,ステンレス鋼材への加工と鉄鋼材への深穴加工では,放電の不安定性発生位置や状態が異なることも確認されている.相手材料の違いにより放電の不安定性が発生する変化はどのような要因によるものなのかも実験的に検証を進める. 最後に,細穴放電加工における深穴加工において,加工速度の低減や電極の引き上げ動作の発生を抑えて,安定的に加工が進行する各種条件(放電条件,加工液ポンプ圧に制御等)を見つけ,実際に加工できることを確かめ,研究のまとめを行う.
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は,ほぼ計画通りの研究費使用であったが,令和2年(初年度)は4月から8月までコロナ禍の対応により学生の研究活動が大幅に制限され,謝金および実験消耗品などの支出が計画より大幅に少なくなった.その繰り越し分が令和3年度で使い切ることができずに次年度使用額として残っている.
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